てれびのスキマ×太田省一特別対談「芸人はなぜ、“最強”になったのか?」
#テレビ #インタビュー #てれびのスキマ
スキマ 僕がいま、すごく象徴的だと思うのは、女子高生を中心とした若い世代に、出川哲朗さんやNON STYLEの井上さん、トレンディエンジェルの斎藤さんとかが、すごく人気があることなんです。いわゆる「気持ち悪い」とか「ブサイク」とか見た目の部分でネガティブな評価を受けがちな人たちが、これほどまとまって支持されたことって、歴史的に見てもあまりないんじゃないかと思うんです。実際、出川さんなんかは、かつて女性たちには本当に嫌われていましたから。彼らに共通するのは、ブレないポジティブさですよね。
太田 「コミュ力が高い」「コミュ障」っていう言い方がありますけど、当然、コミュ力が高い人たちばかりじゃない。そういった人たちにとって、いまスキマさんが挙げた人たちは、救いになっている。女性から見ればネガティブに受け取られる特徴を持った人たちっていうのが、お笑いの中でポジティブな輝きを持つことがある。そういうことを、僕らは日々、目撃してるわけじゃないですか。それって、冷静に考えるとすごいことだと思うんですよね。彼らに人気があるのは、女子中高生たちが、空気を読むコミュニケーションばかりが重視される今の時代に、生きにくさを感じているからかもしれないですね。
スキマ さまざまなジャンルに芸人さんが進出し、支持されている一方で、芸人の本業ともいえる漫才やコントなどのネタがなかなかテレビではできない状況があります。これは、芸人さんたちにとって不幸な状況だと思いますか?
太田 テレビに関しては、芸人にとって不幸なのかそうじゃないのかっていうのは、難しいところだと思いますね。今、テレビでネタは世に出るきっかけのひとつになってしまって、それだけで生きていくのが難しいというのは不幸なことかもしれませんね。でも、「バラエティこそ、テレビだ」って考え方からいくと、ネタももちろん笑いのひとつなんですけど、それだけではない。テレビで何が面白いかっていうと、それまでの常識を壊すことだと思うんです。それは別に、ネタじゃなくてもいいわけですよ。
スキマ なるほど。では、このような「芸人万能社会」は、これからも続くと思いますか?
太田 芸人が巧みなコミュニケーションのお手本だけなら、長く続かない。けれど、コミュニケーションがうまくない人だってこんなに面白いし、魅力的じゃないかというのを示してくれるのも、今の芸人さんだと思うんですよね。また、『万年B組ヒムケン先生』(TBS系)のように、空気を読むとか気にせずに、そこに存在するだけでいいんだと肯定してくれるような番組もある。芸人は、あらゆる人のロールモデルになっていると思うんです。今回、『芸人最強社会ニッポン』とタイトルをつけましたけど、その「最強」というのは、単に勝ち負けの強者という意味ではなくて、芸人こそがわれわれにとって助けになってくれる、救いになってくれるような“強さ”を持っている存在だっていう意味合いもあるんです。テレビの持っていた自由さが、ここまでのバリエーション豊かな文化を可能にした。笑いは、生きた文化なんです。だから、これからもなくならないと思いますね。
●おおた・しょういち
1960年、富山県生まれ。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得満期退学。テレビ、アイドル、歌謡曲、お笑いなど、ポピュラー文化の諸分野をテーマにしながら、戦後日本社会とメディアの関係に新たな光を当てるべく執筆活動を行っている。著書に『紅白歌合戦と日本人』『アイドル進化論-南沙織から初音ミク、AKB48まで-』(筑摩書房)、『社会は笑う・増補版-ボケとツッコミの人間関係-』『中居正広という生き方』(青弓社)など。
●てれびのスキマ(戸部田誠)
1978年、福島県生まれ。お笑い、格闘技、ドラマなどを愛するテレビっ子ライター。2015年にいわき市より上京。著作に『タモリ学』(イースト・プレス)、『有吉弘行のツイッターのフォロワーはなぜ300万人もいるのか』『コントに捧げた内村光良の怒り』(コアマガジン)、『1989年のテレビっ子』(双葉社)。当サイトにて「テレビ裏ガイド」を連載中。
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