具体策なき勇み足でファンの心理を無視!? 音事協らが仕切る高額チケット転売意見広告の生ぬるさ
去る8月23日、朝日新聞と読売新聞の朝刊に、昨今の音楽業界で問題視されてきた「ライブチケット高額転売」【1】についての意見広告が掲載された。同広告では、賛同団体である日本音楽制作者連盟(音制連)、日本音楽事業者協会(音事協)、コンサートプロモーターズ協会、コンピュータ・チケッティング協議会が舵取りし、「チケットを買い占め、高額で転売する個人や業者が存在するために、ファンにチケットが行き渡らなくなっている」ことや、「転売サイトなどで偽造チケットが売られる犯罪行為が行われている」ことに対する危惧を主張。こうした事態を改善すべく、ネット上のダフ屋行為を取り締まれない現行法規の改正を政府や自治体に訴えていくという。この取り組みには、サザンオールスターズをはじめ、Mr.Children、嵐、安室奈美恵などの人気アーティスト、「ロック・イン・ジャパン・フェスティバル」「フジロックフェスティバル」といった人気音楽フェスが賛同している。
音楽業界のチケット転売に対するスタンスが大々的に表明されたことは、ネットでも注目を集めた。しかしユーザーからは、「チケットの高額転売には反対だが、具体的措置が書かれていない」という指摘、高額転売に常々反対していたロックバンド・マキシマム ザ ホルモンのマキシマムザ亮君は、「我々の事務所ミミカジルは(音制連をはじめとする賛同団体に)加盟していないので、名前が載らなかった」と、ツイッターで不信感を露わにした。そんな音楽業界内からは冷めた反応が相次いでいる。実際、レコード会社の邦楽部はもちろん、大型フェスに出演する機会の多い海外アーティストを担当するインターナショナル部門にも、打診がほとんどなかったという。
「ネットでこのニュースを知りましたが、会社では話題になっていません。ライブの収益は基本、事務所側に入るので、チケット転売に関しては、レコード会社はさほど関与していないという理由もありますが。また、賛同しているアーティストを見る限り、各レコード会社に連絡をしたのではなく、賛同団体がツテのある事務所を頼りに、ネームバリューのあるアーティストに確認を取ったのでしょう。ジャニーズ事務所をはじめ、アミューズ(サザンオールスターズ、福山雅治、Perfumeほか)、などに偏っているのもうなずけます」(レコード会社勤務A氏)
「私たちの会社にも連絡は来ていません。チケット転売の改善策が出ていない以上、ただ単に問題意識は持っているというアピールだったのではないでしょうか」(レコード会社勤務B氏)
一方で事務所関係者の話。
「我が社には、フェスに出演するバンドが複数在籍していますが、ミミカジルさん同様、連絡はありませんでした。これまでファンのみなさんからは『チケットを買えなかったので、たとえ高額でも転売サイトやオークションでゲットして絶対に行きます』などという声をいただき、本当にありがたいことなのですが、定価の何倍もする価格で売買されているのは、心が痛みます。そうしたところに警鐘を鳴らしたい反対声明と考えていますが、各プレイガイドなどが行っているリセール(チケット再販売)といった具体策を出してから発表したほうがよかったかもしれませんね」
また、転売反対派ながら、今回の動きに歯がゆい思いをした人も。あるフェスにかかわるイベント制作者の話。
「私がかかわっているフェスは毎年黒字ではありませんが、それでも海外の大物アーティストを招聘することもあって、チケットが高額転売されることがあります。来ていただくお客様には定価のチケットで楽しんでいただきたく、高額転売反対には賛同したかったのですが、なんの打診もなく……。せめてすべての大型フェスに打診があってもよかったかと思います。さまざまなフェスが転売反対に賛同していますが、音楽ファンからしたら、『チケットが高額転売されるどころか、売り切れになるのか?』というような微妙なフェスが多く名を連ねていたのも気がかりでしたし」
アーティストのライブや舞台の観劇の際に必要となる、チケットの高額転売が近年、問題視されている。が、どうしても定価で買えないことだってある。
加えて、賛同者として名を連ねたアーティストたちの中に、EXILEらLDH所属グループ、AKB関連グループ、スターダストプロモーションのももいろクローバーZといった、アリーナ・スタジアム級のライブ動員数を誇るグループが記載されていなかったことについて、「不自然だ」との指摘も。その理由について、前出のレコード会社勤務A氏は「彼らは早い段階から本人認証システムで転売チケットでは入場できない対策を行っていた。しかし、ジャニーズも転売チケットでは入場できない厳重な体制を敷いていたはずですが」と話す。
ただ、実際にチケットを購入する側であるファンの中には「たとえ高額でもゲットしたい」と考える人も一定数おり、業界側との温度差が感じられる。
「転売反対のサイトには、『高額チケット転売購入のせいで、ライブ会場でグッズ購買の機会を奪われる』と書いてあったんですが、ファンは借金をしてでもチケットやグッズを買います。ファンからしてみれば、高額転売問題よりも、手数料問題【2】をなんとかしてほしい」(EXILEファン)
今回の意見広告について、転売サイトである「チケットストリート」の代表・西山圭氏は自身のブログで反対声明を発表。「チケットの転売、二次流通にアーティストやプロモーターが反対するのは理解できます」としつつも、「ただ一方で“高額転売”と主催者側が一方的に決めるのには違和感を覚えます。高額かどうかを判断するのはライブを見るファンであって、アーティストでも主催者でもない」と訴えている。前出のB氏が明かす。
「チケットキャンプやチケット流通センターのような転売サイトは、事務所やレコード会社と揉めることがあります。きっかけは、ファンクラブ会員からの『ファンクラブ限定のチケットが転売されている。こんなんじゃファンクラブの意味がない』などの苦情。そういったトラブルもあって、転売サイトが協賛するイベント(近年では「MTV VMAJ」など)には、所属アーティストの出演を拒否するいった抗議手段を取ることもあったそうです」
結局のところ、一部のダフ屋のような買い占め業者や、ファンを装ってファンクラブに入会し、ファンクラブ限定のチケットを高額転売するような連中は叩かれて然るべきではあるが、需要と供給がある以上、転売全体を批判するのは見当違いではないだろうか。ゆえに、ただでさえCDが売れず、ライブ事業をメインに利益を出していかねばならぬ昨今、時間をかけて改善策を練り、業界全体で取り組むべき運動であったはずだ。今回ばかりは、さまざまな事情で名前の掲載に至らなかったアーティストやフェスのほうが、ある意味、賢い選択だったのかもしれない。
(編集部)
【1】ライブチケット高額転売
「コンサートのチケットを買い占めて不当に価格を釣り上げて転売する個人や業者が横行している現状に、私たちは強い危機感を持っています」という声明で公開された高額転売反対運動。本文でも触れているが、主な反対理由としては「高値で転売されたことでグッズ購入の機会を奪われる」「何度もコンサートを楽しむことができない」などを挙げているが、偽造チケットならまだしも、必死の思いで入手したチケットが「本人確認ができなかったため、転売チケットでは入場できません」と言われ、やり場のない怒りに対しての措置を考えてほしいとは、もっぱらファンの声。
【2】手数料問題
チケット先行販売に応募して当選すると、〈先行手数料〉をはじめ、引き取り時の〈システム使用料〉、チケット発券時の〈発券手数料〉、支払い時の〈決済手数料〉、公演によっては〈特別販売利用料〉など、給与明細で差っ引かれる保険料ばりに、数多くの手数料がチケット料金に上乗せされている。高額転売よりも、ライブや舞台を楽しみにしているファンは、「問題視すべきはこっちだろ!」と声を荒げている。
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