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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.392

地雷女と分かってながら地雷を踏む40男の心理。山下敦弘監督の恋愛もの『オーバー・フェンス』

overfence-movie02さとし(蒼井優)は感情の起伏が激しいメンヘラ女だった。白岩(オダギリジョー)はさとしを懸命に受け止めようとするが……。

 原作は函館出身の作家・佐藤泰志の短編小説集『黄金の服』(河出書房新社)に収録された同名小説。5度芥川賞候補になりながらも不遇のまま41歳の生涯を終えた佐藤文学を、『海炭市叙景』(10)の熊切和嘉監督、『そこのみにて光輝く』(14)の呉美保監督に続いて、両監督と同じく大阪芸術大学映像学科卒業の山下敦弘監督が映画化している。原作では主人公・白岩の年齢は20代前半だったが、映画では40歳前後に変更。ヒロインとなるさとしも、実家の花屋の手伝いからキャバクラで働く、躁鬱が激しいメンヘラ女となった。職業訓練学校に通う主人公のモラトリアムな日々を描くという山下監督らしい内容ながら、『リアリズムの宿』(03)や『リンダ リンダ リンダ』(05)のような作品全体に流れていた大らかさは消え、痛々しさや苦味が先に伝わってくる。

 主人公の年齢変更に加え、蒼井優扮するヒロインが物語の要所要所で踊ってみせるダチョウや白鳥の求愛ダンスも、原作にはないアイデア(脚本・高田亮)。かつて蒼井優は岩井俊二監督の『花とアリス』(04)で匂い立つような可憐なバレエを披露してみせた。10代の少女ならではのイノセントさに溢れた踊りだった。あの頃、彼女の未来には無限の可能性が広がっていた。それから10年あまりが経ち、『フラガール』(06)や『百万円と苦虫女』(08)などゼロ年代の邦画シーンで脚光を浴びてきた蒼井優も今年で30歳。そんな彼女が20代最後の役に選んだのが、“メンヘラ系の女”さとしだった。さとしが路上で踊る求愛ダンスは、どこか滑稽で物哀しい。代島をはじめ街で暮らす男たちは、みんな彼女のエキセントリックさを持て余していることが次第に分かってくる。さとしは迂闊に手を出すと痛い目に遭う、それはそれは恐ろしい“地雷女”だった。

 オダギリジョーと山下監督は共に1976年生まれで、今年で40歳を迎えた。世間的には“不惑”なんて言うけれど、40歳になっても男は悩みから解放なんてされない。出演ドラマの視聴率が悪いと、戦犯扱いされてネットで叩かれる。芥川賞受賞作をメジャー系で全国公開したところ、残念な興収結果に終わってしまった。数字よりも中身で評価してくれよと言いたいところだが、そういう弁解もできない年齢に2人ともなってきた。本作の白岩は、オダギリと山下監督の本音が混じったキャラクターだろう。故郷の職業訓練学校にのんびり通う白岩のように、これからの人生を考えるモラトリアムな時間が男は欲しくなってしまう。

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