韓国・貧困社会のリアル 少年はなぜ、臓器密売の標的になったのか――
#韓国 #東アジアニュース #河鐘基
「住んでいた部屋を追い出されて困っていました。そこで、どこか住まわせてくれるところがないかSNSで問いかけたところ、友人のリ君から“空き部屋がある”と返事が来たんです」(同)
リ被告は、「部屋はソウルにある。釜山より暮らしやすい。配達の仕事もある」とキム君を誘った。キム君は親友の言葉を素直に受け取り、普段から付き合いの深かったほかの孤児2人(2人は兄弟)と、リ被告が紹介する部屋に身を寄せることに決めた。しかし、リ被告は密売組織の“募集役”、つまり手先であり、キム君らを組織に売り渡す算段を立てていた。事件を捜査した釜山警察の刑事は、リ被告の犯行動機について述懐する。
「(リ被告は)お金のために、なんの罪悪感もなく“友達は孤児だから問題ない”という考えで犯罪に手を染めたようです」
なお、リ被告が紹介しようとしていた仕事は、麻薬を運ぶ仕事だったということも、後に明らかになった。親友に裏切られたキム君。しかし、キム君はその恨みを吐き出すこともなく、自分の境遇について淡々と振り返った。
「正直、誰も、飼い主のいる牧場の牛を盗んで売らないと思います。飼い主がいない牛なら、誰も文句を言いませんよね。なぜか、理解はできてしまうんです。自分は、ターゲットになっても仕方がないというか……。(中略)リ君は、3本の指に入るくらい、好きな友達です。なぜあのようなことをしたのか、彼の口から直接聞かなければならないと思っています」
幸運にも、キム君ら3人をはじめ、募集に応じた人々の臓器が摘出される直前、密売組織は摘発された。しかし、今回の事件が明るみしたのは、臓器密売以上にやりきれない、韓国社会のリアルだった。キム君が、撮影クルーに最後に語った言葉が、非常に印象的だ。キム君は最後まで、誰かを恨むそぶりを見せることはなかった。
「僕らみたいな人間は、決して少なくないと思います。誰もが忙しいので、気づかれずに終わってしまうことも多いのですが、(社会や周囲の人たちが)もう少し気づいてくれればありがたい。見捨てられた人間もまた、人間じゃないですか。僕より苦労している子もいると思うのですが、そんな子たちに生きる気力を失わず、元気を出してほしいと思っています」
同事件は韓国で起きた出来事だが、日本にもキム君のように誰にも気づかれず、一日一日を必死に生き延びている少年少女がいるはずだ。今、マスコミや専門家たちの間では“相対的貧困”“絶対的貧困”などのキーワードが、まるで流行語のように行き交っているが……。声なき声を聞く――。そのような真摯な姿勢が、より望まれているような気がしてならない。
(取材・文=河鐘基)
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事