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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 『24』より骨太!『HOMELAND』
ベテラン海外ドラマライター・幕田千宏の「すごドラ!」

イラク戦争の“英雄”は裏切り者だった? CIAとテロとの戦いを描く『HOMELAND』

 日本でも一大ブームを巻き起こした海外ドラマ『24-TWENTY FOUR-』。そのクリエイターであるアレックス・ガンサとハワード・ゴードンがイスラエルのドラマをアメリカ版にローカライズし、高いクオリティで賞レースを席巻したサスペンス・ドラマが『HOMELAND』だ。『24』で海外ドラマにハマった人は多いと思うが、その後、何を見たらいいのかわからないという人は、同じクリエイターの作品を見てみると、作風の共通項が理解しやすい。

『HOMELAND』はCIAの女性エージェントのテロとの戦いを、毎シーズン、スリリングに描いている。24時間の出来事を1時間=1話で描いてきた『24』は、そのフォーマットゆえの工夫やスピード感が中毒性につながっていたが、『HOMELAND』はそれと比べるとじっくりペースだ。とはいえ、あくまで比較対象が『24』だからであって、いざ見始めると、やはり先の読めない二転三転するドラマに、見れば見るほどハマってしまう仕掛けが張りめぐらされている。このあたりの巧みさは、さすが。むしろ『24』よりじっくりペースだからこそ、より骨太で人間ドラマの見応えが増しているのだ。

 物語は、イラク赴任中に行方不明になり、死亡したと思われていた海兵隊員ニコラス・ブロディが、アルカイダの基地から奇跡的に救出されたところから始まる。8年ぶりに祖国の地を踏んだ英雄の帰還にアメリカ中が沸く中、ひとり疑惑の目を向けていた人物がいた。それがこのドラマのヒロイン、CIAのエージェントであるキャリー・マティソンだ。彼女はイラク赴任中に情報提供者から、米国人捕虜がアルカイダに転向したという情報を得ていたのだ。それがブロディだとキャリーは確信するも、アメリカの英雄となった彼の本性を暴くのは並大抵のことではない。キャリーは独自に捜査を開始し、真実を暴き出そうとするが、それは苦難の道だった。

 追う者と追われる者の攻防を描くドラマは多々あるが、『HOMELAND』の肝は、果たして本当に裏切り者なのか、見ている側が翻弄される点にある。そうさせているのが、キャリーが患っている双極性障害だ。薬を飲んでいれば症状は抑えられるものの、彼女は頭がうまく働かなくなると言って、捜査にのめり込むほど薬を飲まなくなる。薬を拒否したキャリーの行動は常軌を逸し始め、執拗にブロディを追い続けるのは彼女の妄執なのか、それとも真実なのか、わからなくなるのだ。キャリーがエージェントとして非常に優秀な人物であるのも、この混迷に拍車をかける。一方、ブロディのほうも、かなりうさんくさい気配が漂っている。しかし、彼は8年間も捕虜としてアルカイダに捕えられていた人物だ。どれほど屈強な人物であっても、帰還後の生活には当然そのトラウマが影響していく。彼の怪しい行動はトラウマのせいなのか、それとも本当にテロリストに転向したのか、限りなく転向したように思えても、やはり見る者は翻弄される。

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