「山口組分裂騒動は“チャンス”だった」異色の社会学者が語る、暴排条例の“穴”とヤクザの苦境
#本 #暴力団 #インタビュー
――チャンスとは?
廣末 山口組分裂騒動によって、ヤクザに見切りをつけた人々が、大量にやめたかもしれません。けれども、実際に起こったのは、その逆です。弘道会も山健組も、抗争を予見し、勢力拡大のためにこれまで破門にした組員を復帰させています。その中には「赤字破門」と呼ばれ、通常では絶対に復縁できなかった人々も含まれている。実際に、私の調査に協力してくれた元組幹部も復縁してしまったんです。そういった人々は、もし社会が受け入れていれば、今さら極道をする必要はなかったでしょうね。
――排除だけでなく、ヤクザをやめた人を支援し、居場所をつくることもまた、ヤクザ対策である、と。
廣末 いま必要なのは、ヤクザをやめて成功した人々の例を共有し、ヤクザをやめてからも希望を持てる社会をつくり出すこと。ヤクザでも「未来がある」という気持ちを持てる社会をつくらなければなりません。「一億総活躍」といわれる時代であり、そこに「ヤクザは除く」とは書いていないわけですからね。
――ヤクザを含んだ「一億総活躍社会」(笑)。その意味でも、やはり暴排条例は問題が多いですね。
廣末 以前、福岡で「おにぎり会事件」というものがありました。ヤクザとカタギとのゴルフコンペ「おにぎり会」に参加したカタギの会社が“密接交際者”と見なされ、県のホームページに実名で掲載されました。その結果、このうち2社が倒産してしまったんです。これは、「ヤクザと付き合うとこうなるぞ」という行政側からの見せしめであり、到底納得がいきません。ジャーナリスト・溝口敦さんも指摘していましたが、暴排条例は、これまでの警察vs暴力団という構図を、市民vs暴力団に置き換えています。暴力団との関係を断つことは、「県および県民の責務」とされているんです。
――まさに、市民に「自己責任」が押し付けられているんですね。では今後、ヤクザはどうなっていくのでしょうか?
廣末 今後は、法の締め付けによって、ヤクザはますます厳しくなるでしょう。そしてヤクザ組織は、フロント企業を持ちながら、合法的に稼ぐ方向に進んでいくでしょうね。昔はヤクザも格好でわかりましたが、今のヤクザはサラリーマンと同じ格好をしているから、見分けがつきにくい。それと同様に、組織自体も、おそらく一般企業に紛れながら生きていくのではないかと思います。
(取材・文=萩原雄太[かもめマシーン])
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