「山口組分裂騒動は“チャンス”だった」異色の社会学者が語る、暴排条例の“穴”とヤクザの苦境
#本 #暴力団 #インタビュー
――「男」であることを美徳とし、決して弱さを見せないヤクザが、泣きながら相談してくるのは意外です(笑)。
廣末 現役の人からも、よく「どうやって子どもを育てればいいのか?」という相談を受けます。自分の子どもには、カタギの道で成功してほしいという気持ちが強いんですね。もちろん、出会った当初は怒鳴られたりすることもしょっちゅうですが、根気強く人間関係を構築していくと、そんな話もできるようになっていくんです。
――全体的な状況に目を移すと、11年に全国で制定された暴排条例以降、ヤクザをめぐる状況は厳しくなる一方です。
廣末 ヤクザをやめてからも、5年間は元組員と見なされ、排除の対象になります。その間は、条例の利益の供与等の禁止規定に基づき、家も借りられない、預金口座もつくれない、葬儀法要も挙げることができない……。これでは、憲法が保障する基本的人権の尊重が著しく制約される状況が生じており、看過できない問題です。
――しかし、ヤクザ組織は、これまで長年にわたって社会に迷惑をかけてきました。そんなヤクザに加入したのは自業自得ではないか? という声は少なからず耳にします。
廣末 それは、悪しき「自己責任論」と同じ構図です。かつては、非正規雇用の問題も自己責任で片付けられたことがありますが、同様に「ヤクザも自己責任だから、離脱者の支援なんか必要ない」という声を耳にすることはしばしばです。けれども、彼らがヤクザになった背景をひもといていくと、生まれた家庭に問題があったり、子ども時代にネグレクトや家庭内暴力を受けるといった境遇に置かれているケースが非常に多い。それらは、「自己責任」とはいえませんよね。そんな環境を一顧だにせずに「自己責任」と切り捨てるのは、おかしいのではないかと思います。
――本書でも「いつも暴力を振るわれていた」「まともな食事が用意されていなかった」などと証言されているように、個人的な理由だけではなく、家庭環境から非行に走り、ヤクザ組織に加入する人は少なくありません。
廣末 また今、この時期にヤクザの問題を考えておかなければ、今後取り返しがつかなくなってしまいます。暴排条例によって追い込まれたヤクザたちは、組をやめても、社会に生きる場所がなければ、アウトローになったり、半グレとつるんだりして生きていかざるを得ません。すると、暴対法や暴排条例の対象外になり、取り締まりが難しくなる。その結果、やりたい放題になってしまうんです……。例えば、ヤクザの場合、覚せい剤の売買は建前上ご法度という掟があります。ましてや、組員が未成年に覚せい剤を売ったら、間違いなく破門になる。でも、アウトローや半グレには、ヤクザの掟は関係ありません。
――では、アウトロー化を防ぐためには、どのような方法が必要なのでしょうか?
廣末 本来、ヤクザを叩くのであれば、「プッシュ」と「プル」、2つの政策が必要なんです。暴対法や暴排条例で、ヤクザのしのぎをやりにくくして追い込む「プッシュ」と、そこから「社会の受け皿をつくる」「カタギになってもしっかりやれる」という支援をする「プル」の政策。両輪があって初めて成立するはずです。ようやく今年4月から、福岡県では元ヤクザを雇った企業に対して補助金を支給するようになりました。本来であれば、暴排条例と同時に、これをすべきでした。もしもそれがなされていたら、山口組分裂騒動は“チャンス”だったと考えます。
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