深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.384
共産党バッシングが『ローマの休日』を生んだ? プロの技で不寛容な時代と闘った男『トランボ』
2016/07/22 17:00
#映画 #パンドラ映画館
脚本家のトランボ(ブライアン・クランストン)は共産党員であることを否定しなかったため、ブラックリスト入りするはめに。
トランボは下院非米活動委員会の聴聞会に呼び出され、態度を改めなかったために刑務所送りとなる。非米活動委員会は表現者たちを標的にした魔女狩りの場だった。でも、トランボに落ち込んでいる暇はない。妻クレオ(ダイアン・レイン)や幼い子どもたちを食べさせるために、刑務所に入る前も出てからも、ガムシャラに脚本を書きまくった。もちろん実名は出せないので、偽名を使っての裏稼業だった。そんな厳しい環境の中で書き上げられた脚本が、『ローマの休日』や『黒い牡牛』といったアカデミー賞受賞作品だった。ハリウッドはトランボを追放しておきながら、彼が偽名で書いた作品を絶賛していたことになる。その時代時代の政治情勢に左右されるハリウッドセレブたちの底の浅さが浮かび上がる。
キューブリック監督作として知られる『スパルタカス』はカーク・ダグラスが反乱を起こす奴隷剣闘士を演じた歴史活劇だが、トランボの経歴を知ることで、これもまた違った価値観が生じる。メキシコで撮影された『黒い牡牛』もそうだ。『黒い牡牛』は小さいときから牡牛と一緒に育った無垢な少年の物語であり、立派に成長した牡牛は闘牛場へと引っぱり出されて闘牛士と戦わせられることになる。自分が大切に育てた牡牛を死なせたくないあまり、少年は危険な闘牛場の中へと飛び込んでいく。剣闘士スパルタカスが体を張って求めていたものも、メキシコの少年が懸命に守ろうとしたものも、ありきたりな表現に置き換えれば、自由や尊厳という言葉になるだろう。そして、それは『ローマの休日』のアン王女がずっと探し続けていたものでもあった。
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