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日刊サイゾー トップ > 海外  > 北朝鮮『聖闘士星矢』ヲタを直撃2
根なし草ライター・安宿緑の「平壌でムーンウォーク」

北朝鮮の『聖闘士星矢』ヲタに会ってきた!(後編)

 
――それは物質的価値観と、どう関連するのでしょうか?

趙さん 肉体が死ねば個人の意識や記憶は消えますが、誰かが記憶にとどめてくれるし、その中で新たな霊魂として存在できる。自分を記憶する誰かが死に絶えたとしても、どうせ皆等しく死ぬのですから、寂しくありません。そして、霊魂の感じるものを、一瞬一瞬大事にするということです。われわれは、資本主義社会の人々より、持ち物も写真も少ない。だからこそ、生きているうちに意識に焼き付ける一つひとつのものが大切なんです。

――もし北朝鮮で日本のアニメが解禁された場合、『星矢』が受け入れられる可能性はあるでしょうか?

趙さん 人それぞれでしょうけど、いま『星矢』を見ても、理解できる人民は少ないと思います。大ざっぱに言うと、特に舶来のものに対する受け止め方を共有するには、経済が平均的に底上げされる必要があると思います。それは、どの国でも同じだと思いますが……。

――最近の日本のアニメで、知っているものはありますか?

趙さん 友達の影響で『東京喰種(トーキョーグール)』を見ました。テーマは複雑だけど、世界観は単純ですね。人間と、人間を食らう側で、もう設定が明らかですよね。

――『東京喰種』は体を食うことで魂も食らうという、宗教的カニバリズムが根底にあるといわれています。単純な食欲のほかに、愛するがゆえに食らうという。

趙さん いずれにしろ、結局食うじゃないですか。カニバリズムの世界になると思うと、単純にぞっとしますけどね。

筆者の同行者 作品表現として、刺激があっていいのでは?

趙さん 刺激って(笑)。今の若い人は、刺激が好きなんですか? 刺激の何がいいのかわかりません。僕は、静かに音楽を聴いて過ごすのが好きですけど。
 
筆者の同行者 仏教は動物的本能や欲求から離脱していく過程といえますし、カニバリズムもまた動物的な欲求のひとつです。ベクトル的には、仏教と似ていませんか?

趙さん いやいや(笑)。過程が同じだからといって、結果も同じとは限らないし。その逆もしかりですよ。まあ、時間があったら研究してみましょう。ただ『東京喰種』の作者も、『星矢』をはじめとする日本の昭和の漫画群を見て育ったと思いますので、自己犠牲の精神については影響を受けたと思っています。

***

 趙さんはほかにも、宮崎駿など日本のアニメ界の重鎮やアニメーターの労働環境にも興味があるようでした。後日、仲介者づてに『聖闘士星矢30周年展』の写真を送ると、たいそう喜んでいました。

●やす・やどろく
ライター、編集者。元朝鮮青年同盟中央委員。政治や民族問題に疲れ、その狭間にある人間模様の観察に主眼を置く。しばしば3重スパイ扱いされるのが悩み。日朝和平、北朝鮮のGDP向上、南北平和統一を願う一市民。ペンネームは実家が経営していたラブホテルの屋号(※とっくに倒産)。<http://blog.livedoor.jp/yasgreen/>

最終更新:2016/07/11 18:00
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