日本を壊滅寸前に追い詰めた“透明な怪獣”とは? 多角的視点で描いた実録パニック映画『太陽の蓋』
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国産の怪獣映画第1号といえば、『ウルトラQ』から始まる『ウルトラ』シリーズを手掛けた円谷英二が特殊技術として参加した『ゴジラ』(54)であり、海底の奥深くに眠っていた太古の巨大生物が水爆実験によって目を覚まし、東京を壊滅させるという内容だった。説明するまでもなく、ゴジラは核兵器がもたらす恐怖のメタファーだ。怪獣映画『ゴジラ』には広島、長崎に投下された原爆がもし東京にも落とされていたら……という終戦からまだ9年しか経っていなかった日本人のリアルな恐怖心が反映されていた。実録映画『太陽の蓋』は、3.11からわずか5年ですでに風化しつつある放射能の恐ろしさを観客の脳裏にもう一度蘇らせる。
東京を火の海にした“破壊神”ゴジラは、芹沢博士(平田昭彦)が自分の命と引き換えにすることで、ようやく撃退される。福島第一原発に最後まで残って指揮を執り続け、2013年7月9日に壮絶死を遂げた吉田所長と芹沢博士のイメージが重なる。だが、『太陽の蓋』に登場する“見えない怪獣”はゴジラよりもさらに始末が悪い。東京では民主党から、原発を日本各地に建設することを推進してきた自民党に政権が戻り、また以前と同じような日常生活が繰り返されている。でも、福島では大量の除染土壌が山積みとなり、どう処分するか決めかねている状態だ。修一ら原発所員は世間の厳しい目にさらされながら、危険が伴う原発の解体作業に従事している。廃炉化の作業が終わるのは、30年か40年先になる。修一の代だけでは終わりそうにない。カメラは最後に、双葉町に掲げられていた「原子力明るい未来のエネルギー」という看板を映し出す。この皮肉めいた看板は2015年12月に撤去され、今はもう見ることはできない。
(文=長野辰次)
『太陽の蓋』
製作/橘民義 監督/佐藤太 脚本/長谷川隆 音楽/ミッキー吉野
出演/北村有起哉、袴田吉彦、中村ゆり、郭智博、大西信満、神尾佑、青山草太、菅原大吉、三田村邦彦、菅田俊、井之上隆志、宮地雅子、葉葉葉、阿南健治、伊吹剛
配給/太秦 7月16日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開
(c)「太陽の蓋」プロジェクト/Tachibana Tamiyoshi
http://taiyounofuta.com
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