「棚橋弘至にありがとうを言いたい」プロレスキャスター20年目の結論
#本 #格闘技 #インタビュー #プロレス
■プロレス原体験は「同級生の下敷きにUWF」
――少しご本人のことも聞きたいのですが、三田さんはプロレスの黄金期に青春を過ごされた世代ですよね。プロレス原体験をあげるとしたら、何になりますか?
三田 いや、本にも書いたように、キャスターの仕事で観に行くまで、どこにも原体験がないんですよ。姉妹の誰も興味がなかったですし、父が家でプロレス番組を観ているなんてこともなかった。タイガーマスクやアントニオ猪木さんが大活躍していた時代だから、接点があってもよさそうなものですけど……あ! 急に思い出しました!
私が高校生のとき、女子はみんな下敷きに好きなアイドルの写真とか挟んだりしていたんですよ。でも、クラスに一人だけ写真がアイドルやミュージシャンじゃない子がいて。彼女が下敷きに挟んでいたのは、前田日明や高田延彦の写真だったんです!
――UWFじゃないですか!
三田 そうそう。アメリカに留学経験があって、クラスでも一際ませていた子だったんですけど、私に写真を見せながら、「UWF最強」「前田は超セクシー」とか言っていたのを急に思い出しました(笑)。しかも写真は黒いリングパンツ一丁のなんですよ。
私はUWFどころかプロレスにも興味がなかったから、「何これ!? なんでパンツ姿の男の写真を持ち歩いているの!?」とびっくりして。これが私のプロレス原体験です(笑)。
――その原体験って、ちゃんと本につながっていますよね?
三田 つながってますか!?
――女子高生すらあこがれるプロレスラーがいて、全国的な人気とカリスマ性があった。でも三田さんのプロレス人生は、その高田延彦が敗れるところから始まっている。青春時代に前田や高田に入れ込んでいなかったからこそ、あの敗戦をきっかけに多くのプロレスファンが総合格闘技に流れていった中でも、「プロレスって面白い!」とのめり込んでいけた。全部つながっているじゃないですか!
三田 そういえば、週刊プロレスの元編集長だった佐久間一彦さんに、この本を渡したときも似たようなことを言われました。「三田さんは入り口がファンじゃなくて、仕事だったのが良かったんでしょうね」って。子供の頃から「プロレス大好き、UWF大好き!」だったら、どうしてもそこばっかりに注目していただろうし、ダメになったときは、「私の愛した団体はこうじゃない!」となっていたと思うんです。
――青春を背負ってしまうとこだわりが出ますからね。
三田 私はクラスメートの下敷きしか予備知識がないところからのスタートだから、全団体に分け隔てなくハマることができたんだと思います。そう考えると、ちゃんとつながっていますね。彼女に本を届けたくなりました(笑)。
■「三田さんって、棚橋選手のこと好き?」
――だからやっぱり、この本は三田さん自身のプロレス観を開陳する、いわゆる「活字プロレス」とはまったく違いますよね。あくまでも、三田さんが目撃した「プロレスを担う人たち」の姿を紹介する本になっている。
三田 そうですね。私に活字プロレスはやれないです。
――ただ、その中でも唯一、本の最後にある棚橋選手の章だけは、ちょっと文章の熱量が違うなって思ったんですよ。ほかのプロレスラーは「この人はこんなにすごい!」という紹介の仕方なのに、棚橋選手だけは、メディアに見せない苦悩の姿に焦点を当てるような文章になっています。これはなぜですか?
三田 読んだ人はみんな、「この本はどうして中邑で始まり棚橋で終わるんですか?」って聞くんですよ。でも実は、もともと棚橋選手の章が最初になるはずだったんです。だって普通、この20年間のプロレスの立役者といったら、「まずは棚橋だよね」って思うじゃないですか。それで私も棚橋選手の章から書き始めたんですけど、結果としては全部書き直すことになって。
書き始めた当時は、ちょうど棚橋選手がメディアにいっぱい露出している時期で、雑誌の表紙もやる、自身の本も出す、テレビにもプロレス代表として取り上げられるっていうタイミングでした。それを日常的に目にしていたら、メディアでの取り上げられ方に私が引きずられてしまった。最初の原稿を読んだ担当編集から、「三田さんって、棚橋選手のこと好き?」と言われるような内容になっていたんです。
――明るく楽しいみんなのエースというか。
三田 そうですね、全く目新しさのない感じになっていました。それで棚橋選手の章は後回しにしていたら、本にも書いたように、ちょうどDDTとの一連の「事件」が起こって。
――昨年の8・23 DDT両国大会に端を発した遺恨ですね。棚橋選手がDDTのエースであるHARASHIMA選手と対決した後に、「全団体を横一列で見てもらったら困るんだよ!」と発言したことで、両団体の間にわだかまりが残りました。
三田 あれを聞いたとき、これは絶対に何か理由があるはずだと思ったんです。誰よりも「みんなのエース」として頑張ってきた人だからこそ、何も考えなしに言うはずがない。そこを掘り下げてみることで、これまでとは違う棚橋弘至が書けるかもしれないと思いました。
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