「棚橋弘至にありがとうを言いたい」プロレスキャスター20年目の結論
#本 #格闘技 #インタビュー #プロレス
今、「新たな黄金時代」と呼ばれるほどのブームを迎えているプロレス。棚橋弘至、オカダカズチカ、内藤哲也といったスター選手を擁する新日本プロレスだけでなく、飯伏幸太を輩出したDDTなどインディー団体も注目を集め、新たなファンを獲得している。
そんなブームの只中に上梓された新書『プロレスという生き方 平成のリングの主役たち』(中公新書ラクレ)は、さまざまなメディアで脚光を浴びるスター選手たち以外にも、女子プロレスラーの里村明衣子やさくらえみ、さらには全日本プロレス名誉レフェリーの和田京平など、不遇の時代からプロレスを愛し、支え続けてきた人々にもスポットライトを当て、発売3日で増刷が決まるほどの話題となった。
著者は、プロレス・格闘技専門チャンネル「FIGHTING TV サムライ」のキャスターを20年に渡って務める、アナウンサーの三田佐代子さん。今も年間120試合以上を取材する中で触れた彼ら/彼女たちのリング内外の言葉を紡ぎながら、“プロレスキャスター三田佐代子”にしか描けない、「平成のリングの主役たち」の真の姿を活写した。
そこで今回は、業界の中から選手や関係者の奮闘を見続けてきた三田さんに、同書の反響と、現在のプロレスがなぜ活況を呈しているのか聞いた。
■10年に1度の瞬間がパッケージされている
――『プロレスという生き方』はすごくタイムリーな本ですよね。三田さんが目撃してきた各選手の生き様が描かれているだけでなく、中邑真輔選手の新日本退団とWWE参戦、さらに飯伏幸太選手のDDT及び新日本プロレス退団と「飯伏プロレス研究所」の設立という、今年のプロレス界に激震が走ったニュースまで書き込まれています。
この2人はいわば、今のプロレス人気を象徴するスター。そんな選手の次の一歩まで書ききったことで、「このタイミングでプロレスブームを振り返ってみた」という一種の区切りを意図された印象を受けました。
三田 よく言われるんですけど、まったくの偶然なんです。中央公論さんからオファーをもらったのは2年前のことですから、本当はもっと早く出ているはずでした。単純に書き直しているうちに2016年に入って大きな出来事が次々と起こってしまい、「こういうタイミングは10年に1度もない。絶対に中邑選手と飯伏選手のことは入れなきゃ!」とお願いして、このニュースを滑りこませたわけなんです。
もちろん、今も内藤哲也選手の大変身とか、入れたいことはもっともっとあるんですけど、さすがにこれ以上は……と踏ん切りをつけて5月に出しました。でも、そのおかげでプロレスファンの方からは、「激動の瞬間がパッケージされている本ですよね」と言っていただき、このタイミングで良かったと思っています。
――三田さんが今につながるプロレスブームの兆しを感じたのは、いつ頃でしたか?
三田 それこそサイゾーさんのような、専門誌以外の一般のメディアから、「プロレスが今、面白いらしいので話を聞かせてくれませんか?」となったのは、2014年が最初だったと思います。棚橋選手や中邑選手といったキラキラした選手に女性ファンが熱狂しているのを見て、「かつてのプロレスと違うぞ」という印象が広まった頃でした。
――プロレスブームを牽引しただけあって、ここ数年の新日本は本当に選手がそろっていました。
三田 そうそう! ブームと言われてからの2年間、私たちは本当にいいものを見せてもらっていたんだなと思います。それが今年に入って中邑、飯伏、さらにAJスタイルズ(BULLET CLUBに所属していた外国人スター選手)までいなくなって、さすがに「新日本はこれからどうなっちゃうんだろう!?」と思いました。
――でも彼らと入れ替わるように、この春からは内藤選手の人気が爆発して。
三田 (内藤がIWGPヘビー級王座になった)4・10の両国はびっくりしましたよね。もともと正統派だったのに、今ではすっかりヒールになって大暴れ。それでもお客さんから支持された。
GK金沢克彦さん(プロレス・格闘技雑誌『ゴング』元編集長)も、「内藤があんなにウケるなんて歴史が変わった気がした」と仰っていたように、スター選手がいなくなっても次が誕生する。こうやってプロレスのバトンは渡されてきたんだなって実感しました。だから、今から新しい本を書くとしたら、まったく違うものになるはずです。
■泣く泣く載せられなかった選手とは?
――『プロレスという生き方』はメジャー、インディー、女子の選手だけでなく、DDTの高木三四郎社長や全日本の和田京平レフェリー、さらにはリング設営やグッズ販売まで手掛ける若手レスラーに密着したりと、専門誌でもなかなか取り上げられることのない裏方の人々まで網羅しています。この人選はどのように?
三田 「最近、プロレスが面白いよ」って話を私が書くのであれば、プロレス専門チャンネルのキャスターとして、インディーからメジャーから女子から広く取材してきたので、その立場は活かしたいなと思っていました。
――イケメンやスーパーマンだけじゃないプロレスの幅の広さというか。
三田 そうですね。そのうえで、ブームの立役者である棚橋弘至選手は入れたいとか、私がずっと魅了されてきた飯伏幸太選手は入れたいとかあって。ただ飯伏選手を入れるのであれば、彼を育ててきたDDTの高木三四郎社長も入れたいって考えながら選んでいきました。
――泣く泣く載せられなかった方も?
三田 それはもうたくさん! 特に入れたかったのは、プロレスを辞めていった人たちです。愛川ゆず季さんであったり、小橋建太さんであったり、あとは辞めて戻ってきた方として、DDTのスーパー・ササダンゴ・マシン選手であったり。ただ、どうしても入れたい人が次々と浮かんできてまとまらないので、「最初の本だから、まずは今頑張っている人を載せよう」ということで、その方々は泣く泣く入れられなかったですね。
――では、続編の構想はすでにある?
三田 この本が売れたら(笑)。もし第二弾があれば、苦しい時代に頑張ってきた永田裕志選手たちといった「第三世代」(新日本で90年代初頭にデビューした選手たち)のエピソードもぜひ入れたい。地方の団体もまだまだ取り上げたいし、女子プロレスも掘り下げたい。書きたいことはたくさんあります。
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