デリヘル、出会い系、危険ドラッグ……グレービジネスの経済学『闇経済の怪物たち』
#本
それまで、危険ドラッグの業者にはヤミ金出身者が多く、薬学についての知識は誰も持っていなかった。一方、猛勉強によって「化学式を見ただけで、これはドラッグとして人体にどう働くか、おおよそ見当がつく」までに知識を蓄えたK氏の作るドラッグは圧倒的なクオリティを誇った。「危険ドラッグに愛を感じていた」という彼の作った会社は、最盛期には月商1億円を売上げたが、金よりも自分の作った商品が業界を席巻するほうが快感だったという。
しかし、13年ごろから徐々に危険ドラッグに対する締め付けが厳しくなっていく。K氏はニュージーランドをモデルにした検査認証機関の設立、自主検査の徹底による危険ドラッグ業界存続を厚労省に働きかけたものの、残念ながらそれが奏功することはなかった。そして、社会の厳しい目から、ますますブラック化していく危険ドラッグ業界に見切りをつけ、あっさりとその業界から引退してしまった。
彼にとって危険ドラッグの魅力は金や反社会的なスリルではなく、単純な「おもしろさ」だった。その証拠に、税務署に財務資料の提出を求められたところ、K氏の作った完璧な書類に「これほどキッチリした財務資料を作ったのは業界でも初めてだ」と驚かれたという。
危険ドラッグから足を洗った今、K氏は他の「おもしろいこと」を探している。
上記の他にデリヘル、闇カジノディーラー、「裏」情報サイトの運営者など数々の人々を取り上げた本書を読めば、グレービジネスといっても、濡れ手で粟の楽な商売ではないことがわかるだろう。むしろ、ホワイトな業界以上に真摯に、丁寧な仕事を実践しており、その経営者本人は「ブラック」な人ではないこともしばしばだ。「オモテもグレーも同じように経営努力しているのであり、職種は違うものの、両者の間にさほど隔たりがあるとは思えない。ましてグレーは新規ビジネスに対する着眼と企画の点でオモテの発想の限界を超えている」と溝口はグレービジネスの実態を語る。
グレーかオモテかにかぎらず、どんな社会でも目の前の仕事には懸命に取り組まなければ「成功」の二文字は見えてこないようだ。
(文=萩原雄太[かもめマシーン])
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