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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.379

“時をかける少女”ならぬ“時をかけるアドルフ”あの男が芸能界デビュー『帰ってきたヒトラー』

hitlerisback03プロパガンダの天才ヒトラーにとって、数字を稼ぐことしか考えていないテレビやインターネットを牛耳ることは容易いことだった。

 映画化された『帰ってきたヒトラー』には、さらに原作にはない面白さが加味されている。それは現代社会にヒトラーが蘇ったら、彼はどんな言動を見せ、周囲はどう反応するかをカメラで追ったセミドキュメンタリー的な趣向を盛り込んでいるという点だ。ディレクターのザヴァツキに連れられて、ヒトラーはドイツ各地を視察して回ることになる。公園やサッカーの競技場の前に総統スタイルで立っていると、自然とギャラリーが集まってくる。若者たちはヒトラーに握手やハグを求め、ヒトラーとのツーショット自撮りを始める。いつの時代もヒトラーは知名度抜群の人気者だ。中には「よく、そんな真似ができるな」と怒り出す者もいるが、ヒトラー役を演じた舞台出身のオリヴァー・マスッチはその都度、ヒトラーとしてアドリブで対応する。「僕はすっかり役にはまりこんでいたし、ヒトラーというマスクがしばらくは自分の顔の一部になっていたくらいだ。撮影時に車から出ると、いつも誰かが近寄ってきて、『ヒトラーじゃないか?』と言われたよ」とマスッチは振り返っている。

 アドリブを交えて、ヒトラー役をブレることなく演じ続けるマスッチの妙演と周囲のリアクションに笑いながら、ふと思う。一般大衆は政治的指導者のイデオロギーに共感して票を投じるのではなく、メディア対応の巧みな人物に票を投じるのだなと。帰ってきたヒトラーは、すぐにそのことに気づき、テレビタレントとして再デビューを飾ったわけだ。情報化社会がますます進むにつれ、抜群のプロパガンダ能力を持つヒトラーはこれから何度でも時を超えて現われることだろう。
(文=長野辰次)

hitlerisback04

『帰ってきたヒトラー』
原作/ティムール・ヴェルメシュ 監督・脚本/デヴィッド・ヴェンド 出演/オリヴァー・マスッチ、ファビアン・ブッシュ、クリストフ・マリア・ヘルプスト、カッチャ・ベリーニ 
配給/ギャガ 6月17日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国順次ロードショー
(c)2015 MYTHOS FILMPRODUKTION GMBH & CO. KG CONSTANTIN FILM PRODUKTION GMBH
http://gaga.ne.jp/hitlerisback

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