『貞子vs伽椰子』白石晃士監督が語る最凶演出術!「一線を越えた光景を僕自身が見たいんです」
#映画 #インタビュー
■地下水脈で繋がる白石ユニバース!
後半はいよいよ伽椰子と俊雄が待っている最凶の事故物件である“呪いの家”が舞台。今回は白石監督が得意とする“POVスタイル”での撮影ではないが、呪いの家に入ってからは観客はもうスクリーンから一瞬も目が離せなくなってしまう。かつてない怒濤のクライマックスシーンに言葉を失ってしまうはずだ。
──学校でいじめに遭っている小学生の男の子が呪いの家だと知っていながら逃げ込むシーンが切ない。子どもにとっては呪いよりもいじめのほうが恐ろしい。娯楽ホラーの中に社会問題を何気に盛り込んでありますね。
白石 子どもの暴力性を描くのは、以前のホラー映画では当たり前のようにあったんですが、最近はちょっとやりづらくなってきてますね。若い観客に観てほしいという気持ちから、彼らが関心を持つように年齢の近い子どもたちのエピソードを呪いの家の導入に使っています。多分、実際にはもっと酷いことが起きていると思うんですけどね。まぁ、呪いの家の紹介の仕方としてはグッドエピソードかなと(笑)。
──白石監督は子どもにも容赦ない。
白石 いやいや。僕というよりも、『呪怨』のキャラクターたちが容赦ないんです。僕は単にキャラクターに従って演出しただけです。なので、僕は責任を取れません(笑)。
──『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!史上最恐の劇場版』(14)や『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!最終章』(15)は3.11後、政府は重大な情報を隠蔽しているんじゃないかという市民の不安感が作品の背景となっていましたが、今回も社会的要素を盛り込むことは意識したんですか?
白石 確かに『コワすぎ!』シリーズは福島原発事故が起きたことで“呪い物質”が拡散してしまったという社会的要素を裏ネタとして盛り込んでいました。実際に原発事故によって社会心理的な意味での“呪い物質”が広まったと僕は考えているんです。多くの人の心理に影響を与えたという意味では、実質的な呪いの要素があったと思うんです。そこはちょっと根っこに置きながら、でも娯楽作品として作り上げたら、ああいうシリーズになったんです。今回は元々あったキャラクターをどうすれば最大限に生かすことができるかというのが一番のテーマだったので、社会的な要素はあまり意識していません。まぁ、裏ネタとしてあるとすれば、僕の作品はだいたい「クトゥルー神話」的な要素を匂わせることが多いんですね。今回もうっすらですが、クトゥルー的なものを感じさせるシーンがあるかもしれません。
──あぁ、貞子が這いずり出てきた井戸はどんな地下世界に通じているんだろうという底知れない不気味さがありますね。白石監督のファンが観ると、『コワすぎ!』シリーズや『カルト』など過去作を彷彿させる部分もあってより楽しめます。他の白石作品と本作は地下水脈的に繋がっている?
白石 まぁ、通底する部分はあると思います。もしかしたら本作は『コワすぎ!』のパラレルワールドで起きたことなのかもしれないし、『カルト』のNEOがパラレルワールドでは経蔵になっているのかもしれませんね。僕という一人の人間を媒介にして作品を作っているので、どうしても似た要素は出てきます。そこは観た方たちに自由に楽しんでもらえればいいなと思っているんです。
──メジャー作品を初体験したわけですが、メジャーとインディペンデントのそれぞれの面白さって何でしょう?
白石 メジャー作品の良さは、お金がたくさんもらえるということですね(笑)。インディペンデント作品を監督した場合は、製作期間中は何とか生活できるくらいのお金をもらえるんですが、手元には残らないんです(苦笑)。ただし、インディペンデントの場合は、直前まで粘ることができる。そこがメジャーとインディペンデントの製作上の違いかもしれないですね。予算の掛かる大きな作品だと事前にいろいろと準備しておくことが多くて、急な変更が難しいんです。でも、予算が小さい作品だとフットワーク軽く、直前ギリギリまで内容を吟味することができる。そういう点はインディペンデントの良さですよね。ギャラが少ない分、監督の自由度も高いですし。『コワすぎ!』もお金にはならないけど、ほぼ自由に作ることができています。それで『コワすぎ!』が僕の名刺代わりになって、今回の仕事に結びついた。予算の大きな作品で息詰まったら、予算の低い作品に戻って、自分のやりたいことをやって、そこでまた評価されて、再び大きな作品に取り組むというやり方もあるかもしれませんね。
──白石監督は『コワすぎ!』シリーズもそうですが、他にも『グロテスク』(09)や『オカルト』、それに韓国ロケ作品『ある優しき殺人者の記録』(14)など振り切った作品を次々と放ってきました。振り切った演出こそ、白石作品の醍醐味と言えそうですね。
白石 『貞子vs伽椰子』も実はもっと振り切ったラストも考えていたんです(笑)。振り切った演出ということですが、僕の場合は企画内容や登場キャラクターたちを突き詰めていき、最終的には僕自身が「えっ、そんなことになるの?」と驚くような作品にしたいんです。自分の想像を上回るクライマックスを、自分自身が待っているんです。一線を越えたいという気持ちが強い。それは何も倫理的な意味で一線を越えるということではなく、作品の壁を壊したいということなんです。作品の壁を壊して、その先にある新しい景色を自分自身が見てみたいし、お客さんにも新鮮な体験をしてほしいんです。どのくらい、それがお客さんに届いているかは作品によって異なると思いますけど、その意識だけは常に念頭に置いて仕事に取り組んでいます。年内にもう一本、メジャー系の作品を撮る予定なので、楽しみにしていてください。
(取材・文=長野辰次/撮影=名鹿祥史)
『貞子vs伽椰子』
脚本・監督/白石晃士 出演/山本美月、玉城ティナ、佐津川愛美、田中美里、甲本雅裕、安藤政信
配給/KADOKAWA 6月18日(土)より全国ロードショー
(c)2016「貞子vs伽椰子」製作委員会
http://sadakovskayako.jp
●しらいし・こうじ
1973年福岡県生まれ。97年に製作した自主映画『暴力人間』がひろしま映像展98で企画脚本賞・撮影賞を受賞。中村義洋監督、松江哲明監督らを輩出した『ほんとにあった!呪いのビデオ』シリーズを経て、『呪霊THE MOVIE 黒呪霊』(04)で劇場監督デビュー。『口裂女』(07)や『テケテケ』(09)など都市伝説を題材にしたホラー作品を手掛ける一方、ドキュメンタリー映画『タカダワタル的ゼロ』(08)も発表している。『グロテスク』(09)はスプラッター描写の過激さから海外では発売禁止に。低予算を逆手にとったフェイクドキュメンタリー作品に『オカルト』(09)、『シロメ』(10)、『超・悪人』(11)などがある。2012年から始まったオリジナルビデオシリーズ『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』で大ブレイク。2015年からは新シリーズ『戦慄怪奇ファイル 超コワすぎ!』でますます冴えた作劇&演出ぶりを披露している。キム・コッピが主演した『ある優しき殺人者の記録』(14)はノーカット風の長回しで撮られたフェイクドキュメンタリーとして白石監督作品の集大成的な面白さが味わえる。撮り下ろし短編作品『白石晃士の世界征服宣言』が付録DVDとして収録されている『フェイクドキュメンタリーの教科書』(誠文堂新光社)が今年1月に出版され、好評発売中。
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