『貞子vs伽椰子』白石晃士監督が語る最凶演出術!「一線を越えた光景を僕自身が見たいんです」
#映画 #インタビュー
■白石流“呪いのビデオ”の作り方
常にベストの作品を提供することが、フリーランスで働く人間にとっての最高の営業活動である。白石監督の仕事ぶりは、そんな映像職人としての哲学を感じさせる。オリジナル作品へのリスペクト愛にも溢れている『貞子vs伽椰子』だが、中田秀夫監督の『リング』(98)で描かれた戦慄の“呪いのビデオ”を今回どのような形で受け継いだのだろうか。
──中田監督の『リング』に登場する“呪いのビデオ”は文字や火山の噴火などをモンタージュした不気味な映像に強烈なインパクトがありました。新しい呪いのビデオを生み出すのは大変な作業だったのでは?
白石 『リング』の呪いのビデオに匹敵する映像を作らなくちゃいけないと考えると、それはすごいプレッシャーでしたね。脚本段階では自分で「不気味なモンタージュ」と抽象的な書き方しかしていなかったんです。具体的にどんな映像にするかは悩みました。元々の『リング』の呪いのビデオには原作小説から続く謎解きのヒントが詰まっていて、その謎を解き明かしていくという面白さもあったと思うんです。鈴木光司さんが練りに練って小説を執筆し、Jホラーの立役者である高橋洋さんがさらに練った脚本に仕上げ、それを中田秀夫監督が映像的にますます精度の高いものへと仕上げた。はっきり言って、オファーを受けてからのあまり時間のない状況で、それを上回る映像を新たに練り上げることは勝算がないと判断したんです(苦笑)。そのことに気づいたときはすでに準備段階に入っていたので、どうしようか悩んだ末にモンタージュ映像にすることはやめました。固定したフィックス映像にすることで、違うベクトルにすることにしたんです。それなら僕なりのやり方でやれるわけです。
──インディペンデント時代に培った、できないものはできないという割り切りの良さが活かされたようですね。
白石 えぇ。でも、VHSの不気味さは継承したい。あまり時間がない中での作業だったんですが、そのとき名古屋のシネマスコーレという映画館で僕の作品を1週間連続で上映するというイベントがあったので、僕も名古屋に行っていたんです。シネマスコーレの副支配人・坪井さんは趣味でVHSのソフトを7000本くらい所蔵していて、そのソフトを置くためにアパートを一室借りているんですね。イベント期間中はそのアパートで僕は寝泊まりしていて、7000本のVHSソフトに囲まれながら名古屋で購入したVHSデッキを並べて“呪いのビデオ”のダビング作業をずっとやっていたんです。テープにいろんな傷を付けたり、デッキとデッキを電波受信で繋いで、その間に僕の手を挟んだりすることでノイズを入れたりして、不気味なテープを作り上げたんです。多分、アパートの一室に並んでいた7000本のVHSのエネルギーも、あの映像の中には入っていると思います(笑)。
──作業風景を想像すると、かなり怖いです。さて貞子と伽椰子の魅力を最大限に引き出す本作のオリジナルキャラクターである霊媒師の常盤経蔵(安藤政信)&珠緒(菊地麻衣)が中盤から登場。『コワすぎ!』シリーズの暴力ディレクター工藤(大迫茂生)とアシスタントの市川(久保山智夏)を思わせる強烈コンビですね。
白石 強い霊力を持った男性霊能者が登場することは僕が入る前の最初のプロットからあったんです。それを僕なりにアレンジしたキャラクターにしています。『カルト』(13)という僕の作品にNEO(三浦涼介)という霊能者を登場させたんですが、経蔵とNEOは似ているかもしれません。鋭い霊感の持ち主である珠緒は、プロデューサーの「貞子、伽椰子、俊雄とは別に、アイコンになるような新しい女の子のキャラクターがほしい」という要望から生まれたものです。経蔵も珠緒もすごく口が悪い。呪いに巻き込まれる有里や鈴花(玉城ティナ)たちだけの物語だとシリアス一辺倒なストーリーになってしまうので、この口の悪いコンビを投入することで従来のJホラーとは違うグルーヴ感やテンションの高さが出るんじゃないかと考えたんです。
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