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テレビウォッチャー・てれびのスキマの「テレビ裏ガイド」第126回

「ダブってない、誰とも」R-1優勝者特番『TVの掟』が教える、ハリウッドザコシショウの真価

「ダブってない、誰とも」R-1優勝者特番『TVの掟』が教える、ハリウッドザコシショウの真価の画像1『売れてる奴らに学ぶ! ハリウッドザコシショウ TVの掟』(関西テレビ・フジテレビ)

「アナタ、正気なの?」

 デヴィ夫人は、目の前で自分のモノマネだと言われて、意味不明な奇声を上げながら、ワケのわからない動きをするハリウッドザコシショウを見て、もっともな感想を述べた。

 それは「R-1ぐらんぷり」優勝者に与えられた冠番組『売れてる奴らに学ぶ! ハリウッドザコシショウ TVの掟』(関西テレビ・フジテレビ)の一幕だ。

 ザコシショウのR-1優勝は衝撃的だった。もともとお笑いファンや芸人たちの間では、その実力が認められていたザコシショウ。だが、その芸風は、とてもテレビ向きではないと思われてきたからだ。しかも、賞レースとなればなおさらだ。しかし、いざ決勝に進出すると、会場は大爆笑。圧倒的な力で、まさかの優勝をもぎ取ったのだ。

 この優勝は、お笑いファンからは歓迎されたものの、「何が面白いかわからない」と批判する声も少なくなかった。確かに、ザコシショウの人となりや背景などを知っているのと知らないのとでは、あるいは、見慣れているか否かで、感じ方は大きく違ってくるネタだ。初めてこの種の笑いを見ると、どう見ていいのかわからなくて混乱してしまうのは無理もないことだ。

 たとえば優勝後、『スッキリ!!』(日本テレビ系)の「クイズッス」にザコシショウが登場した時だ。ひとしきり、得意の誇張モノマネを繰り返すザコシショウ。ここで異変が起こる。

 それをスタジオで見ていたコメンテーターの本上まなみが、泣きだしてしまったのだ。

「え? なんの涙?」
「ごめんなさい……何が起きてるのかわからない」

 生まれて初めて出会ったものへの衝撃で、恐怖や驚きなどの感情がない交ぜになって、意味不明の涙があふれてきてしまったのだ。

 さらに約1カ月後、再びザコシショウが同コーナーに登場し、誇張モノマネの新ネタを披露すると、やはり本上の目からは涙がこぼれてしまう。

「なんですか、その込み上げる涙は?」

と笑いながら問うMC加藤浩次に、本上は苦悶の表情で答える。

「わからないですけど……でも、うれしいです」
「表情と言葉が真逆!」

『TVの掟』は「テレビ的」な振る舞いに慣れていないザコシショウが、ケンドーコバヤシ、陣内智則、たむらけんじ、中川家といった同期の芸人たちから「芸能界で生き残るためにTVの掟を学ぶ」という趣旨の番組である。情報番組リポートやグルメリポート、俳優としてオファーが来た際の演技などを学んでいく。

 やはり最初は奇声を上げたり、変な動きをするザコシショウだが、「建物の外観に触れる」「ほどよく自分の話を織り交ぜる」「入り込みで目を引く動きを」「カメラワークしやすい的確なリアクションを」「取材先に失礼なボケはNG」「体験したことは細部まで覚えておく」といった具体的なアドバイスに、もともと持つマジメな資質が現れ、しっかりと応えていく。

 それをスタジオで見た関根勤は、手を叩きながら絶賛する。

「ニュースター誕生! のみ込みの早さ、スゴいじゃない」
「ニューウェーブだね! 結局、うまい人はいっぱいいるじゃない。うまい人ばっかりがいてもダメだから」
「ニュースターだよね」

 これに対して、真っ向から反対するのはデヴィ夫人だ。

「全然面白くない」
「アナタ、何やってるの?」
「もう、開いた口がふさがらない」

 リポートの極意や演技指導などの「TVの掟」よりもむしろ、この2人のリアクションの対比にこそ、ザコシショウがテレビで生かされるヒントが隠されている気がする。ザコシショウの極端な芸には、極端に褒めるか、極端に否定するか、そのどちらかのリアクションをぶつけると、それを受けたザコシショウのかわいげが全開になる。中途半端ではダメだ。デヴィ夫人は『世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ系)で出川哲朗と名コンビとなっているが、もしかしたらザコシショウとの組み合わせは、それ以来のヒットとなるかもしれない。

 関東圏では『TVの掟』の直後に、ザコシショウがゲスト出演した『にけつッ!!』(同)が放送された。盟友であるケンドーコバヤシとのトークに花を咲かせ、帰っていったザコシショウに対し、千原ジュニアはこう評した。

「25年間、1ミリも動かず立ち続けるってスゴいよね」

 ザコシショウはデビュー以来、テレビに見向きもされなくてもずっと同じ芸風を貫いてきた。そうして長い時間ずっと動かなかったザコシショウに、ようやくテレビが近づいてきた。

 辛らつな評価を与え続けたデヴィ夫人もやがて、根負けしたように言った。

「アナタみたいな人がいないから、いいんじゃない? ダブってない、誰とも」

 ここまでやっているのなら、認めざるを得ない。ハリウッドザコシショウには、見る者にそう思わせる、長い時間をかけて熟成した意味不明なまでのパワーが宿っているのだ。
(文=てれびのスキマ <http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/>)

「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらから

最終更新:2019/11/29 17:39
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