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日刊サイゾー トップ > カルチャー > 映画  > 若者の哀しい心理『エクス・マキナ』

理想の恋人という偶像(アイドル)を追い求めてしまう若者の哀しい心理『エクス・マキナ』

exmachina02メタル感とメッシュ地の組み合わせが、エヴァに新鮮な魅力を与えている。スケルトン状のボディが、何とも色っぽい。

 ケイレブとの会話を重ねることで、エヴァは自分の言動によって男性はどんなリアクションをするのかを学び、ケイレブに対して恥じらいの表情を見せ、おねだりすることを覚えるようになっていく。わずか数日間で、どんどん人間の女性に近い存在となっていく。これはもうチューリングテストというよりは、人間と機械との間に芽生えた恋愛感情である。もうすぐテストが終了すれば、エヴァはその役目を果たし、AIは初期化されてしまう。ケイレブはようやく出会えた理想の恋人を失ってしまうことになる。ケイレブはエヴァを連れて、ネイサン宅から逃げ出すことを考え始める。『旧約聖書』の創世記に記されたアダムとイブのように、エヴァもまた知恵を身に付けたことでケイレブを誘惑しようとしているのか。まるで機械仕掛け(エクス・マキナ)の失楽園を我々は目撃しているような気分になってくる。

 理想の女性は現実には存在しない。多くの男性が思い描く理想の女性像は、幼かった自分にあらん限りの愛情を注いでくれた若き日の母親の面影だろう。もしくは恋愛初期段階で脳内物質が活発に働き、まぶしく映った異性の一瞬の姿ではないか。やがて恋が醒めると、冷ややかに相手のことを見ている自分がいることに気づく。仮に理想の女性がいたとしても、それは男性側の一方的な思い込みか、理想像を演じる女性の演技力のたまものに他ならない。

 理想の女性なんて、どこにも存在しない。もし存在するとすれば、それは想像の世界のものだ。想像の世界と現実の世界を混同してしまうと、小金井市で起きたような悲惨な事件を招いてしまう。でもいつか、テクノロジーの進歩によって、本当にエヴァが誕生する日が訪れるかもしれない。果たして、それは楽園時代の再来なのだろうか。想像の世界と現実の世界との結界が崩れた、危険な時代となる可能性もある。新しく生まれてくるエヴァは、偏屈で古臭い思考回路しか持たない生身の男の手には負えるような代物ではないことは確かだろう。
(文=長野辰次)

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『エクス・マキナ』
監督・脚本/アレックス・ガーランド 出演/ドーナル・グリーソン、アリシア・ヴィキャンデル、オスカー・アイザック、ソノヤ・ミズノ
配給/ユニバーサル映画、パルコ R15+ 6月11日(土)より渋谷シネクイントほか全国ロードショー
(c)Universal Pictures
http://exmachina-movie.jp

最終更新:2016/06/07 17:00
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