理想の恋人という偶像(アイドル)を追い求めてしまう若者の哀しい心理『エクス・マキナ』
#映画
男はいくつになっても、理想の女性像を追い求めてしまうものらしい。友松直之監督の『老人とラブドール』(09)や城定秀夫監督の『ユリア100式』(09)といった独身男性と女性型アンドロイドとのラブロマンスを描いたファンタジー作品は男たちの涙腺を刺激してやまない。その一方で、自分の理想像を現実世界の女性に身勝手に押し付けた「元アイドル刺傷事件」という悲惨な事件が起きてしまった。多くの男は思う。犯人はなぜ生身の女性に稚拙な理想像を求めたのだろうと。そんな自分に都合のいい理想の女性なんて実在するはずないのにと。現実の世界には理想の女性は実在しない。それゆえに、余計に自分の脳内にいる理想の恋人が愛しく思えてくる。『わたしを離さないで』(10)の脚本家として知られるアレックス・ガーランドの監督デビュー作『エクス・マキナ』は、最新のAI(人工知能)を搭載した女性型ロボットに恋をしてしまう若者を主人公にした興味深い内容となっている。
主人公である青年ケイレブ(ドーナル・グリーソン)は検索エンジンで有名な巨大IT企業に勤めるプログラマー。企業内の抽選に運良く当たり、普段は姿を見せない社長が暮らす豪邸に招待される。人里離れた山奥に建つ社長宅にヘリコプターで向かうケイレブ。厳重なセキュリティーシステムに守られた自宅にひとりで暮らす社長・ネイサン(オスカー・アイザック)はアスペルガー系かと思わせるかなりの変人。どうやらケイレブは社長と親睦を深めるために呼ばれたわけではないらしい。ここ社長宅は隔離された研究施設でもあり、ネイサンは最新のAIの開発を進めていた。そのAIの性能を確かめる“チューリングテスト”の質問者としてケイレブが選ばれたのだ。
社長のネイサンが開発したAIを見て、ケイレブは思わず息を呑んだ。AIは女性型ロボットに搭載されており、若く美しい女性の顔の下のボディ部分はスケルトン状になっており、配線の様子が覗いてみえる。ロボットを人間に似せれば似せるほど“不気味の谷”を感じさせるはずなのに、そのアンバランスで無防備な姿が何とも艶かしい。しかもエヴァ(アリシア・ヴィキャンデル)と名乗る女性ロボットは優れたAIを備え、初々しくも知的な会話が2人の間で交わされる。ボーイ・ミーツ・ガール。思春期の頃に両親を亡くし、淋しい生活を送ってきたケイレブはテストを重ねるごとに、どうしようもなくエヴァに魅了されていく。エヴァこそ、ケイレブにとって理想の女性だった。
エヴァを演じたアリシア・ヴィキャンデルは、『リリーのすべて』(15)で今年のアカデミー賞助演女優賞を受賞したスウェーデン出身の若手女優。生まれて間もないエヴァのあどけなさ、そして次期AIが開発されれば廃棄処分となるという運命を背負った哀しみを顔の表情で巧みに演じてみせる。物語の中盤、丸坊主だったエヴァはウィッグを被り、ソックスを履き、カーディガンを羽織ってテストに臨む。特にこのソックスを履くシーンは堪らない。足フェチならずとも、多くの男性はときめきを覚えてしまうだろう。ロボットなのに、エヴァはなんてエロチックなんだ。そんなギャップが、さらにケイレブの欲情を募らせる。
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