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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム >  パンドラ映画館  > 日常生活との交差点『団地』
深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.376

叶わなかった未来と愛すべき日常生活との交差点。 阪本順治監督×藤山直美の奇妙なコメディ『団地』

danchi02どこか日本人離れ、人間離れしている真城(斎藤工)が団地に現われたことから、予想もしなかった方向に物語は転がっていく。

 共に“万博世代”となる阪本監督と藤山直美との顔合わせは、松山ホステス殺害事件を題材にした『顔』(00)以来となる16年ぶりだが、今回はガラリと趣きを変えてきた。子どもの頃に憧れていた世界でも、大人になってシビアな目で見ると、いろんな難題が生じてくる。アーサー・C・クラークのSF小説や星新一のショートショートを少年期に愛読していた阪本監督は、関西の誇るコメディエンヌ・藤山直美を使って、子どもの頃に夢見た未来と目の前にある現実とのギャップを、シュールな味わいのコメディへと仕立ててみせた。

 どこか日本人離れしている真城は、ヒナ子夫婦にとんでもない仕事の依頼をする。そして、その依頼に応えてくれたら、どんな約束でも叶えるという。関西弁の日常コメディが、ゆらゆらとふらふらとSFミステリーへと姿を変えていく。団地暮らしの奥様たちの噂話と相まって、どこまでが冗談か妄想なのか曖昧なまま物語は進んでいく。ジョディ・フォスター主演の『コンタクト』(97)やクリストファー・ノーラン監督の『インターステラー』(14)といったハリウッドのSF映画とはあまりに違うけど、その違いっぷりを楽しみたい。ネタばれになるので詳しくは触れないが、『ウルトラセブン』でメトロン星人がモロボシダンとちゃぶ台を囲んで対話していた夕暮れを思い出す“懐かしい未来”がクライマックスでは待っている。

 是枝裕和監督の『海よりもまだ深く』(公開中)も団地を舞台にしたもので、思うような大人になれなかった男の哀愁がコメディタッチで描かれている。念願の小説家デビューは果たしたものの、良多(阿部寛)には生活能力がなく、今は興信所に勤めている。小説のネタ探しだと周囲には言い訳しているが、実際は浮気調査で得た情報で相手を揺すって、あぶく銭を稼いでいる。ひどく、かっこ悪い大人になってしまった。別れた妻・響子(真木よう子)と息子のことは今でも愛しているが、ギャンブルで散財し、毎月の養育費を渡すこともままならない。そんなダメダメな良多だが、母親(樹木希林)が暮らす団地に息子を連れて帰り、迎えにきた響子と共に台風の夜を過ごす。ひと晩限定で、家族の温かさを良多は取り戻すことになる。

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