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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.375

マスコミから袋叩きにされた渦中の男を密着取材!佐村河内氏主演の純愛ドキュメンタリー『FAKE』

FAKE_movie02森達也監督にとっては、賛否両論となった共同監督作『311』以来となる5年ぶりのドキュメンタリー作品だ。

 佐村河内氏と森監督とが距離をいっきに縮めたのは、テレビという“マスメディア界の王様”の存在だった。佐村河内氏への取材を申し込んできたフジテレビの情報番組のスタッフ、さらに年末の特番に出演してほしいというやはりフジテレビのバラエティー番組のスタッフが立て続けにマンションを訪ねてくる。沢尻エリカが主演したフジテレビのドラマで、自分を揶揄した内容の回があったことを佐村河内氏は録画再生しながら苦情を漏らす。取材を申し込んだフジテレビの社員は低姿勢で「表現の自由ということで理解してほしい」と弁解する。テレビ局も様々な部署に分かれているので致し方ないと佐村河内氏は情報番組の取材はOKする。バラエティー番組のスタッフも「決して笑いのネタにするものではない」と番組の企画意図を懸命に説明する。スタッフの熱い眼差しに即答することは避けた佐村河内氏だったが、結局バラエティー番組への出演は見送った。

 出演を断った佐村河内氏の代わりに、年末特番に出演したのは新垣隆氏だった。あの日以来、2人はすっかり明暗を分けてしまった。佐村河内氏のゴーストライターを務めていたことを告白した新垣氏は、今ではすっかりマスコミの寵児として人気者となっている。その年の暮れ、テレビの特番では新垣氏がお笑い芸人たちからツッコミを受け、スタジオ中の爆笑を集めていた。女性芸人を相手に壁ドンを決めるなど、新垣氏もノリノリでピエロ役を演じてみせている。仮に佐村河内氏が出演していたら、この番組はもっとマジメな内容になっていたのだろうか。佐村河内氏の釈明にきちんと時間を割いただろうか。一緒にテレビを観ていた森監督は言う。「テレビをつくっている彼らには信念や想いとかはない。出ている人をどう使って、面白くするかしかないんです」と。森監督はかつてフジテレビでドキュメンタリー番組を作っていたが、オウム真理教の扱い方をめぐってテレビ界を離れ、『A』『A2』を劇場公開したという経緯がある。手のひらを簡単に翻すマスコミによって痛い目に遭った佐村河内氏と、テレビの本質をズバリと突いた森監督との間には信頼関係が成立していた。

 これまでマスコミではあまり触れられることのなかった妻の香さんだが、今回の密着ドキュメンタリーでは佐村河内氏の手話通訳を兼ねていることもあり、一緒にリビングにいることが多い。香さんは訪問者が現われる度にコーヒーを淹れ、ショートケーキをお皿に盛り、テーブルへと運ぶ。佐村河内氏はゴーストライター問題で大騒ぎになった時点で離婚することを申し出たが、香さんは「終わったことは仕方ないよ」と受け流したという。香さん本人ははっきり覚えていないのか照れくさいのか、「えっ?」ととぼけてみせ、「一緒にいたかったら、一緒にいただけ」とさりげない。すべてのプライドを失った男には、身内のさりげなさこそがいちばんの救いである。思わず涙ぐむ佐村河内氏。このドキュメンタリーは、どうやら逆境に置かれながらも支え合う夫婦の純愛ドラマでもあるようだ。

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