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推定1万人? 「存在しない子」として育った若者たちの人生を追った『無戸籍の日本人』

 井戸氏は、長期間におよぶ別居と離婚調停の末、前夫と離婚。その後、まもなく交際相手との間に子どもを授かるが、離婚後265日という、早産だった。離婚後に妊娠しているし、なんの落ち度もない。ところが、300日という日数に阻まれ、父親は前夫としなければ、戸籍を取得することができなかった。再婚相手の男性を父親にするためには、前夫に協力してもらうほかない。それは大変な重荷だった。当時、役所からこの法律を知らされ、驚いた井戸氏が「なぜ離婚しているのに、前夫が父親になるのですか?」と当然の疑問を役所に投げかけると、担当者は「離婚のペナルティです」と言い放った。

 この“ペナルティ”は、本当に必要なのだろうか? 本書によれば、戸籍がない日本人は推定1万人。この法律の裏で、戸籍を手に入れることができないまま、常にどこかうしろめたさを抱えながら生きている犠牲者たちが、これだけ多く存在しているのだ。彼らがいったい何をしたというのだろうか? 「存在しない子」として育ち、大人になった無戸籍者たちは、声を上げることもできず、いまもどこかで身を隠すように生きている。
(文=上浦未来)

●いど・まさえ
1965年生まれ。宮城県仙台市出身。東京女子大卒。松下政経塾9期生。5児の母。東洋経済新報社勤務を経て、経済ジャーナリストとして独立。兵庫県議会議員(二期)、衆議院議員(一期)。NPO法人「親子法改正研究会」代表理事、「民法772条による無戸籍児家族の会」代表として無戸籍問題、特別養子縁組など、法の狭間で苦しむ人々の支援を行っている。著書に『子どもの教養の育て方』『小学校社会科の教科書で、政治の基礎知識をいっきに身につける』(2冊とも東洋経済新報社・佐藤優氏と共著)。

最終更新:2016/05/08 16:00
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