“バラエティの女王”若槻千夏の帰還 テレビ朝日『まとめないで!!』(4月9日&16日放送)を徹底検証!
#若槻千夏 #相沢直 #タレント解体新書
これと同じ流れが、番組では何度も見受けられる。渡部の言うことは聞いている時点で力量がないということがわかる、というコメントに対して「力量がないんですね!?」とかぶせ、寺門ジモンは本当の食通だが、本当の食通はテレビ向けではないというコメントを聞くと「ジモンさん、テレビ向きじゃないんですか!?」と即座に返す。これらの若槻の発言のすべてにテロップは入らない。というか、不要なのだ。この発言自体が、テロップの役割を果たしているから。たとえば「力量がない」のくだりでは、あとから編集で渡部の顔のアップに「力量がない」というツッコミテロップを入れることもできるが、若槻のコメントがあるからその作業は不要になる。視聴者の熱をテロップで冷ますことなく、自然な流れで番組が進行していく。
現在のバラエティの主流はむしろ、いかに自分のコメントでテロップが出るかという技術勝負になりがちだ。それは、たとえば『ナカイの窓』(日本テレビ系)のゲストMCスペシャルのときに、テロップの回数でランキングがつけられる、というのを見てもわかる。実際、自分が出演者としておいしいのは、そちらのはずだ。笑いも取れるし、印象にも残る。だが、若槻は逆に、自分のコメントでテロップが入ることをおそらく是としていない。前述した「でも、それを大きな声でテレビで言ってるだけでしょ!?」という発言も、間を取ることなくかぶせにいっている。ゲストMCという立場でありながら、その手法はガヤのそれに近い。
それではなぜ、若槻は自分のコメントでテロップが入ることを是としないのか? それはおそらく、自分が個人として結果を残すことよりも、番組全体の流れや面白さを重視しているからだ。かつて『痛快!明石家電視台』(毎日放送)でお笑いモンスターからスパルタ教育を受け、03年から『オールザッツ漫才』(同)でMCを務めた彼女は、バラエティ番組とはチームプレイであるという精神を叩き込まれたはずだ。そしてそれは、今もって若槻の中に息づいていて、新たなバラエティ女性タレント像を作りつつある。
どんな女性タレントも、若槻の真似はできない。なぜならば若槻自身が、誰の真似もしていないからだ。彼女はこれまでの人生で学んだ教訓を、ただただ愚直にバラエティ番組にぶつけている。女王はひとりでいい。誰も歩いたことのない道を、若槻千夏は歩いている。
【検証結果】
若槻は4月13日に放送された『ずっと引っかかってました。~ヒロミ&ジュニア 心のとげぬき屋~』(日本テレビ系)で、かつて自分のことを応援してくれていたファンを心配した。自分のことを応援したのを後悔していないかと。かつてのファンは彼女へのコメントで、DVDのことをデーブイデーと発音する。ほかの出演者や視聴者がそれを笑う中、若槻だけが「悪意がある、今の!」「DVDって言ってんじゃん! テロップ直してくださいよ!」と、たったひとりでファンの側に立った。そこには、計算など微塵もない。ただ愛と感謝だけがあった。若槻は、そのようにして、バラエティの世界で生きている。
(文=相沢直)
●あいざわ・すなお
1980年生まれ。構成作家、ライター。活動歴は構成作家として『テレバイダー』(TOKYO MX)、『モンキーパーマ』(tvkほか)、「水道橋博士のメルマ旬報『みっつ数えろ』連載」など。プロデューサーとして『ホワイトボードTV』『バカリズム THE MOVIE』(TOKYO MX)など。
Twitterアカウントは @aizawaaa
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事