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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム >  パンドラ映画館  > 本人出演『アイヒマン・ショー』
深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.371

テレビ中継されたのは戦争の真実か残酷ショーか アイヒマン本人が出演する『アイヒマン・ショー』

eichmann-show02マーティン・フリーマンは、変人ホームズに続いてアイヒマンに振り回される役。A・ラパリアは『ギター弾きの恋』(99)などに出演した実力派だ。

 プロデューサーのミルトンは裁判をひとつのドラマと捉え、裁判官から傍聴人まで含めた法廷の全体像を求めていた。カメラのスイッチングを多用することで、視聴者の興味を惹こうとする。一方、ドキュメンタリー監督であるレオは、戦争犯罪に加担したアイヒマンの人間像をじっくり掘り下げたいと考えていた。アイヒマンの顔のアップを、カメラマンたちに執拗に指示する。しかし、防弾ガラスで覆われた被告席に佇むアイヒマンの表情は、裁判中ほんとんど変わることがない。次第に中継クルーの間に亀裂が生じていく。さらにミルトン宛に脅迫の手紙や電話が相次ぐようになり、家族のいるミルトンは心が休まらない。あの戦争で何が起きたのかを世界中に伝えるという野心的なテレビ中継は、空中分解する寸前だった。

 やがて裁判が動き出し、証人喚問が始まる。強制収容所から奇跡的に生き延びた人たちが、収容所の中で何が起きたのかを切々と語る。収容所に連れてこられたユダヤ人の子どもたちは「外は寒いから建物の中に入りなさい」と声を掛けられ、ガス室へと送り込まれた。ガス室に入ることを拒もうとすると銃身で殴りつけられ、無理矢理に押し込まれた。愛する家族や親族たちは家畜の屠殺よりも無惨に処分されていった。ガリガリに痩せ細った身体で“死の行進”を強いられた……。おぞましい収容所内の実態が、全世界へ向けてテレビ中継されていく。証人たちの衝撃的な告白に、視聴者は再び興味を示し、視聴率がぐんぐんと上がっていく。中継していたカメラマンは、法廷で暴かれる戦争犯罪のあまりの残酷さに気分が悪くなり、その場で倒れ込む。視聴者が求めていたのは収容所で起きた真実なのか、それともただの残酷ショーなのか。モニターを前に中継を指示していたミルトンもレオも、自分たちの体を張った仕事の是非が分からなくなっていく。

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