3.11に対するピンク映画からの回答。声を失った男の悲痛な叫び『夢の女』『バット・オンリー・ラヴ』
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佐野の久々の主演作『夢の女 ユメノヒト』は福島県南相馬から物語が始まる。広々とした更地に一本だけぽつんと老木が残っている。震災後に有名になった「奇跡の一本松」によく似たロケーションだ。そんな老木の横を自転車に乗った永野(佐野和宏)は走っていく。永野は40年間にわたって精神科病棟で暮らしてきた。ところが震災で避難した際に、永野の病気は完治していることが分かった。でも震災によってまるで変わってしまった故郷に、浦島太郎状態の永野の行き場所はどこにもない。永野は10代の頃の記憶をたどり、初体験を済ませた思い出の女性を探し始める。
永野が探している女性・幸子は、永野が童貞を捧げた同級生だ。といっても2人の間には恋愛感情はなかった。幸子は1000円さえ払えば、誰でもヤラせてくれる“便所女”だった。同級生の男たちはみんな、幸子に1000円を払い、童貞を棄てた。永野も幸子が覚え切れないほど相手をした男たちのひとりに過ぎない。だが、永野は病院で暮らしている間、ずっと夢の中で幸子との初体験を反芻してきた。社会から隔離された生活を送ってきた永野にとって、幸子との思い出は、生身の女性と肉体を交わし合った唯一の経験でもあった。幸子もまた震災によって避難生活を強いられ、東京で暮らしている息子夫婦宅に身を寄せていることが分かった。福島から東京へと伸びている送電線に沿って、永野は黙々と自転車を走らせ続ける。
ピンク映画界で表現活動に打ち込んできた佐野や坂本礼監督にとって、3.11へのアプローチ作となっている『夢の女』。福島から東京へ向かう途中、主人公である永野は何人かの若い女性と出会い、セックスをする機会に遭遇する。だが残念なことに、入院生活の長かった永野の男性器はなかなか勃起しない。それでも永野は夢の中に現われ続けた幸子を探し続ける。夢の中と違って、現実の幸子はもうおばあちゃんになっているはず。でも、永野にとってはリアルに年を取った幸子でなくてはダメなのだ。自分と同じように年を取った幸子を再び抱くことで、永野は本当の意味で外の世界と繋がることができる。福島第一原発が稼働を始めた1971年から、ずっと止まったままだった永野の時間はようやく動き始める。
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