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【3.11後の映画と映画界を考える】

震災から5年、日本映画は何を映してきたのか? 風化する記憶を刻むタイムカプセルとしての役割

 2013年の日本映画プロフェッショナル大賞では、日米合作映画『おだやかな日常』(12)の主演女優・杉野希妃に新進プロデューサー賞、被災地でのロケを敢行した『希望の国』の主演女優・大谷直子に特別賞を贈っている。どちらの作品も福島第一原発事故を題材にした社会派ドラマだ。

大高「杉野さんがプロデュースも兼ねた『おだやかな日常』は、東京郊外で暮らす主婦の視点から震災を捉えたもので、原発事故によって誰もが感じた恐怖や不安感をとてもリアルに描いています。生々しさの残る被災地でロケを行なった『希望の国』も、問題意識の高い作品です。ただ、『東京家族』があまり評価されなかったように、『希望の国』も公開時の評価はそれほど高くなかった。ドキュメンタリーはある程度の評価がある一方で、劇映画=フィクションに、妙な忌避感があるように思えます。公開時は震災からまだあまり時間が経っておらず、作品との距離感が取りにくかったことも一因かもしれません。これら作品も見直すことで、全然違った感慨が湧いてくるのではないでしょうか」

 時間を経て見直すことで、新しい価値観を見出すことができるのは映画ならではの魅力だろう。また、震災の本質を突いた劇映画としての決定作はまだ作られていないと大高氏は語る一方、新藤兼人監督の『原爆の子』(52)や市川崑監督の『野火』(59)といった戦争映画の秀作が終戦から映画の完成・公開まである程度の時間を要したことを先例として挙げる。

大高「被災地などの現状を伝えるドキュメンタリーも重要ですが、原発問題も含めた形で、これからの日本社会はどうなるのかを描く骨太な劇映画が作られることを期待しています。こちらはマスの観客を対象とするケースもあるから、影響力が大きいのです。被災地で起きたことを克明に描こうとすれば、被災された方たちにとっての良い面と嫌な面の両方に触れざるをえません。また、いろんなタブーにも引っ掛かるでしょう。少し前に、新藤監督や若松孝二監督が亡くなりましたが、彼らが元気だったらどういう挑戦をしていたか、ふと思うことがあります。タブーに果敢にぶつかっていった新藤、若松的な映画の作り方が、今強く求められています。日本映画監督協会の理事長を務めている崔洋一監督が震災直後、『(大震災の)記録と記憶を柱にした映画を残そう。未来に残すことは全映画人の宿命』という主旨の声明をしていたのも思い出します。震災を題材にした映画は、映画会社からは生まれにくいようです。私は震災直後、映画界全体で被災地に何か働き掛けることがあるのではないかと期待を込めて書きました。今では、そういう言い方を悔いています。映画界の総意には、期待しないほうがいいのです。寂しいですけどね。だから、プロデューサー、監督、脚本家らの表現者を含めたまさに全映画人としての個々人が、それこそ、各々の場で考えるか行動する以外ないのです」

 今年のベルリン映画祭では桃井かおりが出演したドイツ映画『フクシマ、モナムール』が国際アートシアター連盟賞を受賞し、韓国のキム・ギドク監督は福島でロケを行なった『STOP』を完成させ、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭で上映を行なっている。

大高「海外含めて、いろいろな動きがあります。見たばかりの篠崎誠監督の『SHARING』という作品が、素晴らしい出来栄えでした。震災を題材に、ホラー映画のテイストで、見る者をぐいぐい引っ張っていきます。面白いのです。震災を描いて、面白いとは何事かという人が出てくる気もしますが、この作品は、そのような見方、言い方そのものを俎上に乗せつつ、震災と映画の関わり方を問うているのです。震災からたかだか5年ですが、一時の節目のあとには、また膨大な歳月があるのです。映画もまた、その膨大な時間の前に、やることはとても多いのだと思っています」

 他にも園子温監督が『ヒミズ』『希望の国』に続いて被災地でロケを行なった自主映画『ひそひそ星』(新宿シネマカリテほかで5月14日~)、震災によって皮肉にも社会復帰を果たす男を佐野和宏が演じる『夢の女』(ポレポレ東中野にて4月9日~)などの作品が公開を控えている。映画が震災と震災を経験した人々をこれからどう描いていくのか注目していきたい。
(取材・文=長野辰次)

●おおたか・ひろお
1954年浜松市生まれ。明治大学文学部仏文科卒業後、(株)文化通信社に入社。同社特別編集委員、映画ジャーナリストとして、現在に至る。92年から毎年、独立系作品を中心とした邦画を賞揚する日プロ大賞(日本映画プロフェッショナル大賞)を開催。今年で25回目を迎える。現在、キネマ旬報に「大高宏雄のファイト・シネクラブ」(2012年度キネマ旬報読者賞受賞)、毎日新聞に「チャートの裏側」、日刊ゲンダイに「エンタメ最前線」などを連載中。『興行価値―商品としての映画論』(鹿砦社)、『ミニシアター的!』(WAVE出版)、『日本映画 逆転のシナリオ』(WAVE出版)、『日本映画への戦略』(希林館)、『仁義なき映画列伝』『同・増補新版』『同・復刻新版』(鹿砦社)、『映画業界最前線物語 君はこれでも映画をめざすのか』(愛育社)など著書多数。昭和の官能女優たちの映画を取り上げた『昭和の女優 官能・エロ映画の時代』(鹿砦社)が4月下旬に発売予定。

※2015年度の第25回日本映画プロフェッショナル大賞受賞作は近日発表の予定
http://nichi-pro.filmcity.jp

最終更新:2023/01/26 19:00
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