日本カルチャーに対するスペインからの回答! 善意が悲劇を招くスペイン語映画のニューウェイブ『マジカル・ガール』
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今週取り上げる最新映画は、岡田准一と阿部寛がエベレストでの撮影に挑んだ山岳スペクタクルと、日本の魔法少女アニメが大好きな少女と男女3人の運命を描くスペイン発のドラマ。雄麗な最高峰と気迫みなぎる演技をとらえた映像や、独創的なストーリーと魔術のような展開で、いずれも同ジャンルのハリウッド映画と肩を並べる傑作たちだ(いずれも3月12日公開)。
『エヴェレスト 神々の山嶺(いただき)』は、夢枕獏の小説『神々の山嶺』を、『愛を乞うひと』(1998)、『必死剣 鳥刺し』(2010)の平山秀幸監督が映画化したスペクタクル大作。ヒマラヤ山脈を望むネパールの首都カトマンズで、山岳カメラマンの深町(岡田准一)は、1924年にエベレスト初登頂挑戦で行方不明になった英登山家の所有物らしきカメラを見つける。深町はカメラを調べる過程で、孤高の天才クライマー羽生(阿部寛)と出会う。羽生がエベレストの超難所に挑むと確信した深町は、羽生の元恋人・涼子(尾野真千子)を伴い、再びカトマンズへ。羽生の前人未踏の挑戦を、深町はカメラで追うことを決意する。
邦画初となるエベレストの5,200m級でのロケ撮影を敢行。キャスト・スタッフが1カ月以上に及ぶ過酷な撮影に命懸けで挑んだ映像に、神々しいほど気高く美しい世界最高峰と、それに対峙する男たちの覚悟が圧倒的なリアリティーで刻まれた。岡田はやさぐれた面も持つ野心家の役で新境地。阿部も求道者のようにストイックな登山家を男くさく演じきった。昨年はハリウッド製の『エベレスト3D』も公開されたが、人間の実存に迫る骨太なドラマという点では、本作のほうがより一層の高みに到達した印象だ。
『マジカル・ガール』は、新鋭カルロス・ベルムト監督の長編映画デビュー作にして、スペインのサン・セバスチャン国際映画祭でグランプリと監督賞を受賞した新感覚ドラマ。白血病で余命わずかな少女アリシアの夢は、大好きな日本のアニメ「魔法少女ユキコ」のコスチュームを着て踊ること。失業中の父ルイスは、高額なコスチュームを手に入れるため、思い切った行動に出る。それは、心に闇を抱えた女性バルバラや、刑務所を出所した元教師ダミアンを巻き込み、予想外の事態へと転じていく。
大の日本オタクというベルムト監督は、架空の魔法少女アニメのほかにも、長山洋子のデビュー曲「春はSA・RA・SA・RA」でアリシアが踊ったり、エンドロールで「黒蜥蜴の唄」(美輪明宏作詞・作曲)のカバー曲が流れるなど、日本のテイストを随所にちりばめた。大胆な省略でキャラクターや状況の謎を効果的に配し、先の読めないストーリーに引き込む手腕が鮮やかだ。善意が悲劇を招く連鎖で笑わせるシニカルなユーモアも絶品。スペインの巨匠ペドロ・アルモドバルが絶賛した本作は、昨年日本公開されたアルモドバル製作のアルゼンチン映画『人生スイッチ』(14)に並ぶ、注目すべきスペイン語映画のニューウェイブだ。
(文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉)
『エヴェレスト 神々の山嶺(いただき)』作品情報
<http://eiga.com/movie/80572/>
『マジカル・ガール』作品情報
<http://eiga.com/movie/83438/>
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