願い事が呪いに変わる、もうひとつの“まどマギ”。オタク文化への偏愛と批評性『マジカル・ガール』
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まるでメビウスの輪のような物語だ。ひとりの少女の願いが伝言ゲームのようにバトンリレーされていき、やがて呪いへと変わってしまう。日本のサブカルチャーに多大な影響を受けたというスペインのカルロス・ベルムト監督による『マジカル・ガール』は、日本特有のアニメジャンル“魔法少女”をモチーフにしたクライムストーリーとなっている。人間の愛が悲しい犯罪を引き起こしてしまう残酷な世界を日本の観客は目撃することになる。
この物語は魔法少女に憧れるスペインの少女の願いから始まる。アイドル時代の長山洋子のデビュー曲「春はSA-RA SA-RA」が流れる中、12歳の少女アリシア(ルシア・ポジャン)は曲に合わせて、軽快に踊っている。アリシアは日本のアニメが大好きで、特に『魔法少女ユキコ』にハマっていた。「春はSA-RA SA-RA」は『ユキコ』の主題歌なのだ。仲のよい女友達のことをマコト、サクラと日本人名で呼ぶ。ちなみに色白なアリシアはユキコと呼ばれている。週末は女友達で集まって日本のアニメを見て、ラーメンを食べるのが彼女たちにとって最高の楽しみだった。でも、彼女のそんな楽しい時間はもう残り少ない。アリシアは白血病を発症しており、入退院を繰り返していた。医者からは余命わずかだと、アリシアの父ルイス(ルイス・ベルメホ)は告げられていた。男手ひとつでアリシアを育ててきたルイスは、魔法少女に夢中になっている娘を複雑な想いで見守っていた。
ルイスはアリシアが書いた願い事ノートをこっそり開いて読んでしまう。そこには3つの願いが書いてあった。誰にでも変身できる、魔法少女ユキコのコスチューム、そして13歳になること。ルイスに叶えてあげられることは、魔法少女のコスチュームを日本から取り寄せることしかない。でも、ルイスがインターネットで値段を調べてみると日本円で90万円もする。有名デザイナーによる一点もので、とてもプレミア度が高い衣装だった。早くに妻を失い、アリシアの看病に追われて失業中のルイスにはそんなお金は用意できない。朝食を摂りながらラジオを聴いていたアリシアは父親に向かって、「もう少し一緒にいて」と頼むが、娘のためにお金を工面することしか頭にないルイスは慌ただしく出掛けてしまう。大事な蔵書を古本屋にすべて引き渡しても、酒代にしかならなかった。思い詰めたルイスは宝石店を襲撃しようとする。そんなとき、謎めいた魅力を持つ女性バルバラ(バルバラ・レニー)に出会う。
バルバラは少女時代から不思議な能力が備わっていた。だが、それゆえに社会にうまく溶け込むことができず、周囲の人たちを次々と不幸にしてきた。大人になった今は精神科医である夫の管理下に置かれ、精神安定剤や睡眠薬を与えられ、本当の自分を押し殺すように暮らしていた。その晩、薬を飲み過ぎて気分が悪くなったバルバラは、マンションの窓から身を乗り出して滝のようなゲロを吐いた。マンションの1階が宝石店で、たまたま店の前で思案していたルイスは全身ゲロまみれとなる。バルバラは謝罪の言葉と共にルイスを部屋に招き、シャワーを浴びるよう勧めた。夫が深夜勤務で不在だったバルバラはどうしようもないコドク感から、その夜ルイスとベッドを共にする。一夜限りとはいえ愛し合い、体を許し合ったルイスとバルバラだったが、ここから悲劇がうなりを上げて加速していく。
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