独身者は収容所送りとなる恐怖の婚活コメディ! 『ロブスター』の男たちは居場所を見つけられるか
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森の中は独身者たちにとっての自由なパラダイスかと思いきや、独身者のリーダー(レア・セドゥ)が厳しい規則を定め、森の治安を守っていた。森の中では独身であることは罪ではないかが、逆に恋愛や性行為が固く禁じられていたのだ。森で生きていくためにその決まりに同意するデヴィッドだったが、皮肉にも森で暮らす近視の女(レイチェル・ワイズ)に強く惹かれてしまう。恋愛しろと言われれば萎えてしまい、恋愛禁止と命じられれば瞬く間に恋に墜ちてしまう。デヴィッドの頭と下半身はまるで一致しない。人間とはままならない不条理な生き物であることが分かる。
独身であることが国家によって禁じられ、独身者たちは反政府勢力として森へと逃げ込むディストピア的世界観は、レイ・ブラッドベリの長編小説『華氏451度』を彷彿させる。フランソワ・トリュフォー監督は自身唯一のSF映画『華氏451』(66)の中で読書を禁じる政府に抗うブックピープル(活字中毒者)たちが潜む森の生活をユートピアのごとく美しく描いたが、実際にユートピアで暮らすとなると大変なようだ。もともと人づきあいが苦手で、施設から逃げ出してきたデヴィッドは、独身者たちが暮らす森の生活に溶け込むのも容易ではない。それゆえに近視の女との触れ合いが、いっそう掛け替えのないものとなっていく。
レイ・ブラッドベリ的なSF世界から、クライマックスは谷崎潤一郎文学を思わせるサディスティックな展開が待ち受けている。ロブスターのように海底でひっそりと生きることを願っていたデヴィッドは、最後の最後に真実の愛に触れることになる。真実の愛とは肉眼では見えないもの、ということらしい。
(文=長野辰次)
『ロブスター』
監督/ヨルゴス・ランティモス 出演/コリン・ファレル、レイチェル・ワイズ、ジェシカ・バーデン、オリビア・コールマン、アシュレ・ジェンセン、アリアーヌ・ラベド、アンゲリキ・バブーリァ、ジョン・C・ライリー、レア・セドゥ、マイケル・スマイリー、ベン・ウィショー
配給/ファイン・フィルムズ R15+ 3月5日(土)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国順次公開
(c) 2015 Element Pictures, Scarlet Films, Faliro House Productions SA, Haut et Court, Lemming Film, The British Film Institute, Channel Four Television Corporation.
http://www.finefilms.co.jp/lobster/
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