鬼才タランティーノが“密室ミステリー”に挑戦! 大人のエンタテインメント『ヘイトフル・エイト』
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今週取り上げる最新映画は、鬼才タランティーノ監督による仕掛けに満ちたアクション娯楽作と、美しい沖縄の島でロケを行ったリリー・フランキー主演の映像詩的作品。1世紀半前の米国の雪山と、現代日本の離島、それぞれの舞台も物語の魅力を高めている2作品だ(いずれも、2月27日公開)。
『ヘイトフル・エイト』(R18+指定)は、クエンティン・タランティーノ監督が『ジャンゴ 繋がれざる者』(2012)に続き19世紀後半の米国を舞台に描くサスペンス活劇。雪山で立ち往生していた賞金稼ぎのウォーレン(サミュエル・L・ジャクソン)は、通りかかった駅馬車に乗せてもらう。先客は同業者のルース(カート・ラッセル)と、連行中の女頭領デイジー(ジェニファー・ジェイソン・リー)。さらに新任保安官を名乗る男も加わり、4人は猛吹雪から避難するため中継地のロッジで休憩をとる。そこには、絞首刑執行人(ティム・ロス)ら3人の先客と、見知らぬメキシコ人の店番がいた。ルースはデイジー奪還を狙う仲間が正体を隠していると疑い、ウォーレンも因縁のある男に気づく。8人の嘘と憎悪が交錯し、やがて惨劇に発展する。
「密室ミステリー」と宣伝され、確かに大雪で閉じこめられた山小屋で犯人不明の殺人が起きるが、犯人捜しの謎解きがメインではない。むしろ、ダラダラした会話、時間軸の交差、不意をつくバイオレンス描写など、いつもの“タラちゃん印”を楽しむ大人のエンタテインメントだ。ジャクソン、ラッセル、ロスらによるクセ者感たっぷりの安定した演技もさることながら、顔にアザや傷の特殊メイクで熱演した紅一点リーの不敵なやさぐれ感が絶品。往年の70ミリフィルム機材による撮影で、美しい景観などを風格ある超ワイドショットで収めつつ、B級テイスト漂うゴア表現を共存させてしまうあたりも、タラ映画ならではの魅力だ。
『シェル・コレクター』は、『美代子阿佐ヶ谷気分』(09)の坪田義史監督、リリー・フランキー主演で描くファンタジックなドラマ。沖縄の孤島で、貝を収集しながら静かに暮らしていた貝類学者(フランキー)は、島に流れ着いた画家いづみ(寺島しのぶ)と出会う。いづみは世界中に蔓延する奇病を患っていたが、イモガイの毒針に刺されたことで奇跡的に回復。奇病を治したとの噂を聞いた患者らが島に押し寄せ、貝類学者の日常が狂い始める。
アメリカ人作家アンソニー・ドーアによる同名短編小説の原作から、舞台を沖縄に置き換えた。美しい島と海をとらえた映像に、生と死、再生の物語が詩的に融合し、官能に訴える独特の世界が展開する。共演は池松壮亮、橋本愛ほか。リリー・フランキーは、世捨て人のような盲目の学者を的確に表現。はかなげな男たちと好対照な、寺島と橋本の輝く生命力が強く印象に残る。
(文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉)
『ヘイトフル・エイト』作品情報
<http://eiga.com/movie/83735/>
『シェル・コレクター』作品情報
<http://eiga.com/movie/81676/>
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