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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 『ナオミとカナコ』の生きる道
テレビウォッチャー・てれびのスキマの「テレビ裏ガイド」第117回

かつての清純派女優が企てる、危うい完全犯罪――“最強の二人”『ナオミとカナコ』の生きる道

naomikanako0218.jpgフジテレビ『ナオミとカナコ』

 広末涼子と内田有紀。90年代に青春を過ごした者にとって、二人は“女神”だった。ともに90年代半ば、ショートカットの清純派女優としてアイドル的な人気を博した。だが、2000年代に入ると、それぞれの理由で一時的にテレビから姿を消す。そして同じ05年、示し合わせたかのように二人は女優復帰する。奇妙なほど符合する芸能生活。はたから見れば、彼女たちは“ライバル”のように見えた。事実、これまで二人の共演は実現していなかった。

 そんな彼女たちが、W主演としてついに初共演を果たしたのが『ナオミとカナコ』(フジテレビ系)だ。それも、二人は親友という役柄。最強の二人だ。そしてなんと、二人で完全犯罪を企て、殺人に手を染めるのだ。

 広末演じるナオミは、葵百貨店の外商部に務めるOL。本店が管轄する美術館での勤務を希望するもかなわず、営業先では顧客に無理難題を命じられ、鬱屈した日々を送っている。一方、内田演じるカナコはエリート銀行員の達郎(佐藤隆太)と結婚し、専業主婦に。誰もがうらやむ生活を送っていた。だが実際は、達郎から激しいドメスティック・バイオレンスを受け苦しんでいたのだ。ふとしたきっかけでカナコのそんな実情をナオミが知ったことから、達郎を二人で殺そうという犯罪計画が始まる。

 正直言って、このドラマは物語うんぬんよりも、この二人の共演する姿を見たいがために見始めた。だが、そんな二人の共演を凌駕し、すべてを持っていくかのようなインパクトを与えたのが高畑淳子だ。彼女が演じているのは、中国食品の輸入会社・李商会を経営している中国人社長・李朱美。独特のイントネーションと豊かな表情で黄色い色眼鏡の強欲な中国人を演じ、全編シリアスなサスペンスドラマの中で明るいアクセントになっている。高畑が演じると、自分本位で守銭奴の李も、かわいげがあふれていて憎めない。いまや、早く彼女が画面に登場しないかと思ってしまうほどだ。

 だが一方で、ナオミとカナコの殺人計画の背中を押す危険人物でもある。ナオミと李は葵百貨店で出会い、ナオミの日本人らしからぬ強気な姿勢を李が気に入り、意気投合する。そこでナオミは思わず「実は今、大学時代からの親友が旦那さんに暴力を受けていて……」と、李に相談するのだ。

 すると李は、間髪入れずに即答する。

「殺しなさい」

 唖然とするナオミに、李は「そのオトコに生きている価値はないのことですネぇ」と続ける。「捕まっちゃうじゃないですか?」とナオミが返すと、さも当然のようにこう返すのだ。

「じゃ、捕まらない方法、考えなさい。ジブンの人生、守るための、ウソや策略、すべて正当防衛!」

「殺す」という選択肢ができてしまったナオミの前には、見た目が達郎そっくりな李の会社で働く不法滞在者の中国人・林(佐藤隆太)や、ナオミに全幅の信頼を寄せ、預金口座の管理を一任してくれる認知症の顧客・斎藤(富司純子)といった人物が現れる。そしてナオミは、彼らを利用すれば、完全犯罪が実現できるのではないかと思いつくのだ。

 第3話以降、その殺人計画の準備から実行までこと細かく描写されていく。かつて清純派女優として男たちの女神だった二人が、「首は3分間絞め続けないと蘇生する可能性がある」とか「バッグに入れたまま埋めたら、白骨化が遅くなる」とか、冷静に話し合っているのだ。そして、死体を運ぶ車のカーラジオからPUFFYの「これが私の生きる道」が流れるのが象徴的だ。

 今、テレビではとかくコンプライアンスが叫ばれている。よく言われていることだが、ドラマの中の銀行強盗だって、逃走中の車でシートベルトをつけなければならない時代だ。そんな時代に犯罪の手口を細かく描写するのは、なかなかの暴挙だ。だが、この完全犯罪の企てはかなりずさんで、ほころびがあることは視聴者にもわかる。数多くの証拠を残していて、「死体が見つからない」という前提が崩れれば、すぐにこの犯行は露見する。そんなことは、二人もきっとわかっているのだろう。でも、やるしかないのだ。

 李はナオミに言う。

「アナタ、強い! 私の会ったニホンの女の人で一番強い。だけど、その強さを使う勇気持っていないだけのこと」

 自分たちの未来を守るためなら、ルールをはみ出すくらいのことをやらなければならない。そのためにすることは、すべて「正当防衛」だ。うまくいっても、ダメになっても、そこにしか生きる道はない。それは、決してナオミとカナコだけに当てはまるものではない。たとえ完璧なものでなくても、その心意気と強い思いを乗せ、とにかく実行してみること。そしてそこに踏み出す勇気こそ、今のテレビにも最も必要とされていることなのだ。
(文=てれびのスキマ <http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/>)

「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらから

最終更新:2019/11/29 17:42
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