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日刊サイゾー トップ > エンタメ > スポーツ  > 悪から主役、死…心震える刺客

ヒールから主役へ、そして壮絶な死……誰もが“感情移入”した「刺客」ライスシャワー

 もっとも、この時のライスシャワーはマイナス14キロ、メジロマックイーンを倒すべく究極の仕上げ、極限まで削ぎ落とした馬体で出走していたのだ。その点を鑑みることなく「悪役」「関東の刺客」になってしまった部分は、気の毒としか言いようがない。

 その後、無理な減量がたたったのか、ライスシャワーは惨敗を繰り返し、翌年の春には重度の骨折を負う。10カ月近くを休養に当てざるを得ず、復帰したのはその年の有馬記念。レースは3着だったものの、年明けの2レースは連続で6着と、いよいよ忘れられた感があった。

 しかし、2年ぶりに出走した天皇賞・春で、ライスシャワーは再びの激走を見せる。食い下がる年下のライバルたちをねじ伏せ、得意の京都競馬場での復活勝利。さすがのファンもケガを超えての復活劇に感動したようで、ここへきて一気に人気馬となる。

 力を見せながらも立てなかった主役の舞台。それをようやく手に入れたライスシャワーは、ファン投票1位で夏のグランプリ・宝塚記念(この年は京都競馬場で開催)に出走する。初の真打ちとしての登場だ。

 順調にレースを進めたライスシャワー。堂々たるレースぶりで馬群を進めていた。連勝も期待したファンもいたはずだ。

 しかし第3コーナー、一瞬にして期待や夢は断ち切られる。

 誰の目から見ても「絶望的」と言わざるを得ない左前脚の骨折。もはや立ち上がることすらできなくなったライスシャワーは、その場で安楽死処置を取られた。主戦騎手であった的場均は、馬運車で運ばれる彼を最敬礼で見送った……。

 一瞬にして失われたライスシャワーの命……その衝撃と世間の反応は凄まじく、高速馬場への批判や、記念碑の建立になるまでの騒ぎとなった。しかし、そのような「死後ブーム」に意味があるのかと疑問を呈する人間も多くはなかった。

 競馬場で骨折して安楽死というのは、競馬においては決して珍しいことではなく、「ヒール」から「スター」になってしまったライスシャワーの突然の死を美談にしたいジャーナリズムだという意見もある。そして世間というのは、そういうストーリーに弱く、それこそ“感情移入”してしまうのである。

 ただ、彼を評価する際は、ミホノブルボンやメジロマックイーンという紛れもない強豪を京都の舞台で真っ向から下したこと、骨折を乗り越え、天皇賞を制したその強さ、現代競馬最後の「本物の長距離馬」の姿であるべきで、死の瞬間ではないはず。京都で躍動したその美しい馬体でなくてはならないはずだ。そういう意味でも、ライスシャワーは何ともドラマ性ある馬だったのは間違いがない。

 京都で咲き、京都で散った「刺客」ライスシャワー。彼は現在も、サイレンススズカなどとともに「悲劇の名馬」の1頭としてファンの記憶に刻まれている。

最終更新:2016/02/01 22:30
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