アンジェリーナ・ジョリー監督作がついに公開! 実録戦争サバイバル『不屈の男 アンブロークン』
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本著には収容所に軍属として勤めた木村藤雄氏の証言も紹介されている。木村氏は知り合いが見ている前では捕虜をぶん殴ってみせたそうだが、誰もいないところでは自宅からこっそり持ってきた芋などの食べ物を渡していたという。終戦の年になると、捕虜たちは英語の話せない木村氏にゼスチャアでしきりに感謝の意を示したそうだ。しかし、木村氏のように日本人全員が捕虜と意志の疎通ができたわけではなかった。食料不足を補うためにゴボウを食べさせたところ「木の根っこを食べさせられた」、脚気に苦しむ捕虜にお灸治療をしたところ「身体に火を押し付けられた」と虐待として訴えられ、直江津収容所の看守たちの多くは戦争裁判の末に絞首刑となっている。
コーエン兄弟が脚本に参加している本作は終戦を迎え、捕虜たちが解放されるところで終わりとなるが、最後に写真とテロップでルイが戦後をどのように過ごしたかが駆け足で紹介される。米国に戻って結婚するルイだが、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を患う。キリスト教に帰依することで“赦し”を覚え、ようやくルイの中の戦争は終わりを告げる。幻に終わった1940年の東京五輪に出場することは叶わなかったルイだが、1998年の長野五輪に聖火ランナーとして再来日を果たすことになる。ルイにとって日本は、おぞましい記憶を植え付けられた国であり、同時にアスリートとして憧れの地でもあったのだ。戦後は逃亡生活を送ることで戦争裁判を逃れた渡邊との再会もルイは望んでいた。自分をさんざん苦しめた渡邊に赦しを与えるつもりだった。だが、渡邊はルイの申し出を断り、その姿を見せることは二度となかった。
戦時中、渡邊は暴力という形でルイの心の中にまで踏み入ろうとしたが、それは一方的な片想いで終わった。戦後、ルイはキリスト教の教えに従って渡邊へラブコールを送ったが、その想いは届かなかった。『アンブロークン』は哀しいすれ違いの物語である。破壊されるべきは、人間が抱く偏見や不寛容さだろう。
(文=長野辰次)
『不屈の男 アンブロークン』
原作/ローラ・ヒレンブランンド 監督/アンジェリーナ・ジョリー 脚本/ジョエル・コーエン&イーサン・コーエン、リチャード・ラグラヴェネーズ、ウィリアム・ニコルソン 出演/ジャック・オコンネル、ドーナル・グリーソン、MIYAVI、ギャレット・ヘドランド、フィン・ウィットロック
配給/ビターズ・エンド PG12 2月6日(土)より渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー
(c)2014 UNIVERSAL STUDIOS
http://unbroken-movie.com
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