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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > NHK痛快娯楽劇『ちかえもん』
テレビウォッチャー・てれびのスキマの「テレビ裏ガイド」第115回

ダメな奴らは、かわいらしい――NHK×松尾スズキ『ちかえもん』という虚実皮膜の痛快娯楽劇

chikaemon.jpgNHK木曜時代劇『ちかえもん』

「どうも、近松門左衛門です。浄瑠璃作家として教科書に載っている、あの近松門左衛門です。大河ドラマでもナレーションさせてもらったことがある、あの近松です!」

 そんなモノローグが挿入される時代劇が『ちかえもん』(NHK)だ。

 NHKの時代劇? 堅そう。近松門左衛門? よく知らない。

 そんな先入観で見ることをためらってしまうのは、心底もったいないドラマだ。

 いま一番元気で自由なドラマ枠は何かと言われれば、僕は迷わずNHKの木曜時代劇だと答えるだろう。民放でほとんど時代劇の新作が作られない中で、それを逆手に取るように、この枠はコンスタントに質の高い作品を放送している。質が高いだけではない。とても挑戦的かつ、娯楽性の高い作品が多いのだ。

 冒頭に引用したモノローグだけでも、この『ちかえもん』の特異性がわかるだろう。

 本作は、近松門左衛門が人形浄瑠璃の傑作『曾根崎心中』を完成させるまでを描いたドラマだ。だが、近松が「芸の真実は、虚構と現実との微妙なはざまにある」と、「虚実皮膜」こそがフィクションの醍醐味だと説いたように、このドラマもまた、虚実皮膜の物語だ。だから近松本人のモノローグなのに、「教科書に載っている」だとか「大河ドラマでもナレーションさせてもらったことがある」などと現代人目線。さらに、「嘆き疲れた 宴の帰り これで浄瑠璃も 終わりかなとつぶやいてえ~♪」と、「大阪で生まれた女」の替え歌まで歌いだしたりもするのだ。

 演じているのは、大人計画の主宰で劇作家でもある松尾スズキ。脚本は『ちりとてちん』などの藤本有紀。ドラマ脚本家が劇作家に浄瑠璃作家の思いを託し、悲劇の傑作を描くまでの苦悩を喜劇で描くという複雑な構造になっている。だから「もうちょっと褒めてくれたかてええやろー!」などという、物書きの不安や弱さがリアルかつコミカルに描かれている。

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