井上監督が語る『あまちゃん』とトンネルの向う側 音楽ロードムービー『LIVE!LOVE!SING!』が劇場公開
#映画 #インタビュー
■絆という言葉では絆を結ぶことはできない
──正直さが『あまちゃん』人気を生み出したわけですか。本作も正直さを全面に押し出した作品ですね。主人公の朝海(石井杏奈)は中学生のときに福島で被災し、神戸に引っ越してきた。高校の卒業イベントで「しあわせ運べるように」を合唱することになるけれど、神戸復興の願いが込められた歌詞内容が彼女にはきれいごとに感じられてしまう。
井上 そうなんです。当たり前のことなんですが、東日本大震災で被災した人と阪神淡路大震災を経験した人とでは温度差があるし、同じ被災地でもそれぞれ被災状況が違うわけです。それを被災していない側は、同じ被災地、同じ被災者とひと括りにしてしまう。そこには溝があって当然だし、そう簡単に分かり合うなんてことはできない。絆って言葉では絆を結ぶことはできないんです。でも、「分からないから、さよなら」とサッと別れる人たちの話ではなく、「分からない。分からないけど……」というところから始まるドラマなんです。
──最初は「しあわせ運べるように」の歌詞がきれいごとのように感じられていたのが、朝海たちと一緒に神戸から福島まで旅をすることで、被災者の心情を完全に理解することはできなくても、被災者たちの感じた痛みを想像することはできるようになる。被災地の風景を知ることで、最後に流れる「しあわせ運べるように」がまるで違う歌のように聞こえてくる。
井上 正直いうと、僕も最初に「しあわせ運べるように」を聞いたときは抵抗を感じたんです。それが神戸はもちろん、震災後の福島でもよく歌われていて、何度も聞くうちに聞こえ方が変わってくる。心が動かされていくんです。いちばん抵抗を感じるのは、「生まれ変わる神戸のまちに」というフレーズだと思います。「そう簡単に町が生まれ変わるわけないだろう」と劇中の朝海みたいに感じる人は少なくないでしょう。でも、何度も聞いているうちに「そうか、生まれ変わるのは町だけじゃないんだ。自分の気持ちが変わることで、町も変わっていくんだ」というようにも感じられていくんです。復興していく町を応援したいという希望と自分が知っていた町が消えていく哀しさとがないまぜになった複雑な心境ですね。最後の「しあわせ運べるように」の合唱シーンを撮るために、朝海役の石井杏奈ちゃんには1カ月前から地元の合唱グループと一緒に練習してもらいました。5分程度のシーンですが、「女子高生たちの文化祭みたいなイベントをやります」とホールを1日貸し切って、地元の人たちに集まってもらって公演を行なったんです。最後の1シーンを撮るために、かなりの手間ひまを掛けました(笑)。
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