2つの冤罪事件の命運を分けたのは何だったのか? 司法が犯した重大犯罪を暴く『ふたりの死刑囚』
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本作で監督デビューを果たしたのは、東海テレビ報道部で警察・司法担当の記者を務めてきた鎌田麗香ディレクター。『重い扉』から『約束』まで手掛けた齋藤潤一ディレクターはプロデューサーとなり、重いバトンを鎌田ディレクターが受け継いだ形だ。2つの冤罪事件を追うという非常にシリアスな内容ながら、獄中の袴田を支え続け、釈放後は一緒に暮らして世話を焼く3つ年上の姉・秀子さん、奈良から奥西のいる八王子医療刑務所まで片道5時間かけてわずか5分間の面会のために通う85歳になる妹・美代子さんにカメラは寄り添い、『ふたりの死刑囚』を究極の家族愛のドラマとしている。また、釈放されて間もない袴田に最初は及び腰だった鎌田ディレクターだったが、取材を重ねることでタフなドキュメンタリー監督へと成長していく過程も盛り込んだセルフドキュメンタリー的要素も含んでいる。
冤罪事件を生み出す大きな要因である“自白の強要”に加え、“最良証拠主義”があることを本作は訴えている。名古屋から上京した鎌田ディレクターに“最良証拠主義”について説明してもらった。
鎌田「最良証拠主義というのは、裁判を速やかに進めようという検察側の概念であって、法律で決められているルールではないんです。裁判は非常に時間がかかるため、被告の有罪を立証できる必要最小限の証拠だけを提出すればいいという考え方で、現在の裁判はその考え方に従って進んでいます。でも、この最良証拠主義では、検察がどのような証拠を持っているのかを弁護側は知ることができません。『袴田事件』では検察は袴田さんの無罪に繋がるような証拠を隠していました。カラー写真に映っていた衣類は、1年以上も味噌樽に浸かっていたとは思えないものでした。弁護側は衣類を記録したカラー写真のネガの開示も請求したのですが、検察は『ネガはない』と主張していたんです。でも、裁判所が再審を決定するとネガが出てきた。裁判官が『他にも有力な証拠があるなら出すように』と言わない限り、検察は被告に有利になる証拠は出そうとしないんです」
「名張毒ぶどう酒事件」でも検察は事件現場から見つかった証拠の王冠は9つだけと裁判所に報告しているが、東海テレビの事件当時の資料映像を確かめてみると捜査官は現場で少なくとも18個の王冠を回収していたことがはっきりと分かる。検察は人命に関わる死刑裁判においても平然と嘘をつくことを本作は明らかにしている。
鎌田「検察は証拠をすべて開示するように裁判所が命じれば、多くの冤罪事件は解決に向かって動くはずです。でも最良証拠主義は裁判における大前提となっているので、簡単には変わらないでしょう。裁判員制度を再審にも採用すれば、外部の意見がもたらされることで、裁判や検察の在り方もひょっとすれば変わるかもしれません。また、東海テレビが30年かけて『名張毒ぶどう酒事件』の報道を続けていることで、世間の印象も少しずつ変わりつつあるのではないでしょうか。奥西さんの生前には叶いませんでしたが、今後もこの事件の冤罪性を東海テレビは追っていくつもりです」
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