世間の常識よ、直下型ブレーンバスターをくらえ!! 障害者プロレス四半世紀の激闘を刻む『DOGLEGS』
#映画 #パンドラ映画館
ヒース「障害者プロレスに出会うまで、僕は海外のメディア向けに日本のユニークな文化を紹介し、日本での取材をコーディネイトする仕事もしていました。ヤギの金玉刺しを食べる沖縄の食文化ですとか、秋葉原のオタク文化といった海外の人が喜びそうなものですね。それはそれで面白いのですが、どうしても表面的な取り上げ方で終わっていたんです。もっとしっかり取材できる題材を探していました。そんなときに『ドッグレッグス』のことを友人のジャーナリストから聞いたんです。試合会場は障害者やその家族、健康そうな若者たちが一緒になってすごくアットホームな雰囲気でした。でも試合が始まると一変しました。障害者同士が闘うことに驚き、また一方の障害者が徹底的にヤラれているのを観てショックを受けました。他の試合では実況アナウンサーが毒舌を交えて場内実況しているのを、一緒になって笑っていいのか躊躇しました。でも障害者レスラーたちは自分の意志でリングに上がり、闘っているわけです。消化できない感情が自分の中でジェットコースターのように渦巻きました。自分は障害者に偏見は持っていないつもりでしたが、“障害者は守られるべき存在”という別の意味での偏見に囚われている自分がいることに気づいたんです。これは2~3年かかってもいいからじっくり取材したいと思い、気がついたら映画の完成まで5年間もかかってしまいました(笑)」
サンボ慎太郎とアンチテーゼ北島の黄金カード以外にも、障害者プロレスには驚異的な異能レスラーがいることをヒース監督のカメラは伝える。重度の障害だけでなく、女装癖とアルコール依存症も抱える愛人(ラマン)はミラクルヘビー級の人気レスラーだ。だが障害が進行し、症状をごまかすためにアルコールへの依存度が増し、リングに上がることさえままならなくなっている。障害者は健常者よりも身体機能の老化が早い、という厳しい現実が突き付けられる。闘っているのはラマンだけではない。健常者であるラマンの妻はミセス愛人(ミセスラマン)、2人の間に生まれた息子はプチ愛人(プチラマン)として障害者プロレスのリングに上がっている。障害者と一緒に暮らす家族もまたファイターでなくては務まらないのだ。ミセスラマンが一発一発がズシンと重たい蹴りを繰り出せば、息子のプチラマンもリング上で堂々たる闘いぶりを見せる。家族間のやり場のない感情がリング上で爆発する。
もうひとり、ヒース監督が強く心を惹かれたのは若手レスラーの中嶋有木だ。彼は見た目こそ普通の若者だが、癌を患い、鬱病とも闘っている。普段はラマンの介護をし、ラマン家族と交流しているが、ひとりぼっちになるとどうしようもなく生きづらさが込み上げてくる。目に見える身体的障害だけでなく、心の障害を持つ者にとっても「ドッグレッグス」のリングは欠かせない聖域なのだ。障害者プロレスの存在意義は、旗揚げ当初よりもずっと大きなものとなっている。
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