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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.355

ヤクザのいない清潔な街は本当に居心地いいのか? 東海テレビのドキュメンタリー『ヤクザと憲法』

yakuzatokenpo02組員による組の説明。親分(親)、舎弟(叔父)、若頭(長男)、若中(子ども)……とヤクザ組織は疑似家族であることが分かる。

 人気ビデオ映画『ミナミの帝王』シリーズの監修を務め、『悲しきヒットマン』(89)の原作者でもある山之内幸夫弁護士の事務所にもカメラは入る。山之内弁護士は日本最大の指定暴力団「山口組」の顧問弁護士だ。世間体や家族のことも考えて暴力団の顧問を引き受けることを悩みもしたが、社会から落ちこぼれた者たちにどうしようもなく惹かれてしまう。暴力団の顧問になったため、一般企業や団体からの依頼はほとんどなくなってしまった。食事はコンビニで買った質素な総菜類で済ます。暴力団のお抱え弁護士と聞けば贅沢三昧かと思いきや、想像とまるで違うことに驚く。ヤクザだけでなく、ヤクザに関わる人間への締め付けも厳しくなっている。

 それにしてもヤクザの日常生活に密着したドキュメンタリーをつくるとは、東海テレビは懐が深い放送局だ。劇場公開された『平成ジレンマ』(11)はかつて体罰問題で世間を揺るがせた戸塚ヨットスクールが今でも引きこもりや家庭内暴力を振るう若者たちの最後の受け皿となっていることを描いた。土方ディレクターの前作『ホームレス理事長』も社会の落ちこぼれたちの受け皿づくりに熱心なのは社会から浮いた変人であることを明るみにした。本作もまた、ヤクザ組織は社会のはみだし者たちの数少ない居場所であり、その居場所さえも奪われつつあることを伝えている。

土方「東海テレビの伝統に沿ったドキュメンタリーを狙って企画した作品ではないんです。プロデューサーの阿武野勝彦が『取材対象に制限なし』と言うので、東海テレビでしか撮れないものをと考えて出てきた企画です。言ってみれば、僕自身が局内での落ちこぼれ。入社時は東海テレビの花形部署だった昼ドラの製作部に配属されていたんですが、1年で出されました(苦笑)。その後は報道部で遊軍記者をやっていたんです。阿武野自身が元はアナウンサーでしたが、異動で報道部に配属された。局内の流れ者たちが集まっているのが東海テレビのドキュメンタリー班なんです(笑)。束ねる立場にある阿武野にしてみれば、『お前らなら、社会の底辺にいる人たちの心情も分かるだろう』ということじゃないですか。テレビ局に入社したものの、いろんな規制があって思うような表現ができない。今のテレビマンたちのそんな鬱屈とした想いが、『自由に撮っていい』と言われて溢れ出し、世間から虐げられている存在を追っているのかもしれませんね」

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