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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.352

会議は全員オムツをはいて出席せよ!? オーナー一族への忠誠を強いる財閥社会の異様さ『ベテラン』

veteran-movie03ミス・ボン(チャン・ユンジュ)をはじめとする広域捜査隊の仲間たち。出世の見込みのない先輩ドチョルの男気にほだされて捜査に協力する。

 今回のスンワン監督はアクションとドラマとの配分が抜群にうまい。出番は少ないが、主人公ドチョルの妻ジュヨン(チン・ギョン)の出演パートも効果的だ。稼ぎが少なく、ひとり息子の教育にも理解が乏しい夫のことをいつも愚痴っているジュヨン。そんな彼女のもとにシンジン物産の常務チェ(ユ・ヘジン)が現われ、ブランド品の高級バッグを手渡そうとする。バッグの中には札束がぎっしり。これ以上、夫に余計な首を突っ込ませるなということだ。このシーンの直後、ジュヨンは夫の職場に怒鳴り込み、同僚たちの前で夫をこっぴどく責める。「私だって女だから、高級バッグやお金を目の前にしたら、気持ちが揺れ動いてしまうのよ!」。誰だってお金は欲しい。権力者とうまく付き合って、夫にはもっと出世して稼いでほしい。でも、私が愛した男が、息子の父親がそんなケツの穴の小さな人間でいいのか。私や息子が惚れ惚れしてしまうような、かっこいい男でいてくれと。

 古女房にケツを叩かれたドチョルは、大企業の威光に守られたテオへの追求の手を緩めない。シンジングループは政界にも手を回し、警察上層部から捜査中止命令が下りる。それでもドチョルはテオを追う。もう司法問題うんぬんではない。病院で意識不明状態のままのペやその息子に、このままでは合わせる顔がない。我が子に対しても、胸を張れる父親ではいられなくなってしまう。時として人間は自分のことよりも、自分以外の人間のためのほうがガムシャラになれる。クライマックスはソウルの繁華街・明洞でのド派手なカーチェイス&肉弾戦だ。逃げるテオに、汗くさくて重たいお父さんパンチが炸裂する。
(文=長野辰次)

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『ベテラン』
監督・脚本/リュ・スンワン 出演/ファン・ジョンミン、ユ・アイン、ユ・ヘジン、オ・ダルス、チャン・ユンジュ
配給CJ Entertainment Japan 12月12日(土)よりシネマート新宿ほか全国順次ロードショー
(c)2015 CJ E&M CORPORATION,ALL RIGHTS RESERVED http://veteran-movie.jp/

最終更新:2015/12/11 10:36
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