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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.352

会議は全員オムツをはいて出席せよ!? オーナー一族への忠誠を強いる財閥社会の異様さ『ベテラン』

veteran-movie01ファン・ジョンミンが熱血刑事に扮した『ベテラン』。ジョンミンは『新しき世界』(13)のエレベーターでの血みどろの死闘が忘れがたい

 サム・メンデス監督の『007 スペクター』(公開中)が洗練された娯楽映画の極致ならば、それとは真逆の味わいが楽しめるのがリュ・スンワン監督の『ベテラン』だ。『007』シリーズと同じくアクション映画だが、刑事ドラマである本作はとことん泥くさく、汗くさい。主人公である刑事たちはまるでドブすくいするかのように、現代社会の闇の部分に手足を突っ込むことになる。スタイリッシュなかっこ良さには無縁の主人公だが、汗だくでキムチ鍋を食べ終えた後のような爽快さのあるエンディングが待っており、韓国で1300万人を動員する大ヒットとなった。

 リュ・スンワン監督は『生き残るための3つの取引』(10)で警察組織の腐敗、『ベルリンファイル』(13)で北朝鮮と韓国との熾烈な諜報戦、と硬派なテーマを扱ってきた。スンワン監督が今回斬り込んだのは、韓国社会を実質的に支配している財閥企業の横暴さだ。大韓航空(韓進グループ)の副社長が起こした「ナッツリターン事件」が大騒ぎになったことは記憶に新しい。また近年だけでも、自動車メーカーを中心にした現代グループでは創業者の孫たちが大麻吸引、韓国最大の財閥であるサムソン電子グループでは会長の孫息子のエリート中学への裏口入学疑惑が問題となった。企業内だけでなく、一般社会でもわがもの顔で振る舞うオーナー一族への庶民の不満は溜まりに溜まっている。そんな庶民の鬱憤を代弁するのが、韓国きっての男気俳優ファン・ジョンミン演じるベテラン刑事とその仲間たちだ。

 広域捜査隊のソ・ドチョル(ファン・ジョンミン)はいつも荒っぽい捜査で、出世には縁遠い刑事だった。そんなドチョルは監修をつとめたTVドラマ『女刑事』の打ち上げに呼ばれる。華やかな女優たちがいるパーティー会場で、鼻の下を思いっきり伸ばすドチョル。美味しい食事とお酒にありつこうとするが、会場で異様な光景に出くわす。身なりのいい若者が、美人モデルや屈強なボディガードたちをまるで家畜同然に扱っている。その若者はTVドラマのスポンサーである財閥企業シンジングループの御曹司チョ・テオ(ユ・アイン)だった。テオはずっと鼻をグシュグシュさせていた。ドラッグ常用者の癖だ。せっかくの酒の席を台無しにされたドチョルは、テオに向かって「法は守れよ」と釘を刺すことしかできなかった。

 しばらくしてドチョルに電話が掛かってくる。以前から交流のあった子連れのトラック運転手ペ(チョン・ウンイン)が自殺未遂で病院に運ばれたのだ。ペが自殺した場所はシンジングループの中核会社シンジン物産の本社ビルだった。ペ親子は賃金の未支払いが続いていることを本社まで直訴し、その直後にペは非常階段から身投げしたという。事件の臭いを感じたドチョルは、大企業の社内で起きた自殺事件の真相を探り始める。「先輩と一緒にいるとロクなことにならない」と嘆きながらも、ミス・ボン(チャン・ユンジュ)ら広域捜査隊の同僚もドチョルの捜査に協力する。

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