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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.351

世界一のプレイボーイが“ヤリチン”から卒業か!? 男が生き方を改めるとき『007 スペクター』

007spectre01ダニエル・クレイグ主演作『007 スペクター』。メキシコの祭り“死者の日”に参加したボンドは、亡霊(スペクター)に苦しめられることに。

 自由奔放に生きてきた男が、生き方を改めるときが来る。職場で責任ある仕事を任されるようになったとき、肉体的もしくは精神面での変化が生じたとき、そしてマジで惚れた女ができたとき。多くはこの3つのケースのどれかか、もしくはそれらの要素が複合した場合だろう。シリーズ最高傑作と評されている『007 スペクター』は、“世界一のプレイボーイ”として知られたジェームズ・ボンドがそれまでのライフスタイルを改める大転機作となっている。

 初代ボンドをショーン・コネリーが演じた『ドクター・ノオ』(62)から、すでに半世紀以上が経つ。映画館で楽しむ英国発の伝統芸能となっている世界屈指の長寿シリーズ『007』は、英国の諜報員であるボンドが世界を股に掛けて国際的犯罪組織と戦うアクション映画としての面白さに加え、ボンドがどんな美女たちとメイクラブするのかがお楽しみとなっていた。ボンド自慢の濃厚フェロモンとベッドテクで、敵の放ったハニートラップ要員さえもボンドの虜にしてしまう。シャレたスーツを着こなし、どんなピンチにも動じず、美女たちとのロマンスも欠かせない。ジェームズ・ボンドは男が頭の中で思い描く“理想の男性像”だった。しかし、50年という時間の経過に伴い、社会情勢も大きく変化し、憧れの男性像もずいぶんと変わった。

 ダニエル・クレイグ扮する6代目ボンドは、『ダイヤモンドは永遠に』(71)以来となる巨大犯罪組織スペクターと死闘を繰り広げることになる。前作『スカイフォール』(12)に続いての登板となるサム・メンデス監督はボンドとスペクターの首領(クリストフ・ヴァルツ)との因果関係を解き明かし、ダニエル・クレイグ就任後の『カジノ・ロワイヤル』(06)、『慰めの報酬』(08)、『スカイフォール』、そして本作に至る4作品を総括する。ボンドカーの秘密装置は『ゴールドフィンガー』(64)、ボンドが列車内で戦うシーンは『ロシアから愛をこめて』(63)や『私を愛したスパイ』(77)のオマージュとなっており、オールドファンを喜ばせる。その上で、これまでの歴代ボンドたちがうかつには手を出すことができなかった問題に6代目ボンドは挑むことになる。

 スパイとしては非常に優秀だが、愛する女性を守ることができなかったというトラウマを6代目ボンドは抱えている。『カジノ・ロワイヤル』では本気で惚れた女ヴェスパー(エヴァ・グリーン)を目の前で失い、前作『スカイフォール』では家族のいないボンドにとって母親代わりだったM(ジュディ・リンチ)の死も見届けるはめになった。仕事はできても、自分にとっての大切な人を守れずにいることに悩むボンド。メキシコ、イタリア、オーストリア、モロッコ……と世界各地で大掛かりなロケが行なわれ、スケールの大きさを感じさせる本作だが、作品の主題はボンド自身のとてもプライベートなものとなっている。

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