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日刊サイゾー トップ > エンタメ > ドラマ  > 『下町ロケット』前半レビュー
構成作家・相沢直の“スナオなドラマ考”

『下町ロケット』は原作から何を足し、何を引いたか……スピード感を得た“21世紀の『水戸黄門』”像

 情報量の多さを処理する上で効果的に使われている演出が、松平定知によるナレーションだ。毎回頭に入るこのナレーションだが、普通であれば前回までのあらすじを視聴者に紹介するという役割に過ぎないところ、前回から今回に至るまでに何があったかも説明するという離れ業を演じている。

 たとえば第4話、佃製作所が帝国重工からの審査を受ける回だが、この回の頭のナレーションでは帝国重工の審査する側の溝口(六角慎司)と田村(戸次重幸)の簡単な紹介と富山敬治(新井浩文)との関係性の説明がなされる。これをナレーションだけで処理するというのは、かなりアクロバティックな演出だろう。通常のドラマであれば、この3人が話し合う場面を映像として見せるわけだが、それをあえてせずにナレーションで処理する。かつ、前回までのあらすじと交えてそれがなされているために、視聴者としての違和感はまったくない。前回までのあらすじと思って見ていたら、そのまま今回のエピソードに引き込まれるという、シームレスな演出方法になっている。

 この情報量の多さとテンポを重用視する演出は、むしろ海外のドラマに近いともいえるだろう。視聴者が多くの海外ドラマに触れ、そのスピード感を知っている今、『下町ロケット』は新たなスタイルを模索し、それを確立しつつある。

<どの回を見ても楽しめるという『水戸黄門』的スタイル>

 これまでに述べた演出方法により、『下町ロケット』が何を目指し、また何に成功しているのかというと、どの回を見ても楽しめるという、いわば『水戸黄門』的スタイルだ。通常の日本のテレビドラマであれば、どれか1話を見逃してしまうとその後の話についていけないということは多い。というか、全話を通して見る視聴者を前提としているためにそうならざるを得ないわけだが、『下町ロケット』はそうではない。第何話から見ても楽しめるというスタイルを突き詰めていて、だからこそ視聴率が右肩上がりになるという成功を収めている。

 各種デバイスの発達やHDD録画視聴というスタイルの普及により、テレビドラマを毎週同じ時間にお茶の間に座って見る、という昔ながらの視聴方法はすでに崩れている。『下町ロケット』はそれを前提として新たなテレビドラマのスタイルを追求する、“21世紀の『水戸黄門』”だといえるだろう。第6話以降、このまま上昇飛行が続いていくのかどうか、見逃せないところだ。
(文=相沢直)

●あいざわ・すなお
1980年生まれ。構成作家、ライター。活動歴は構成作家として『テレバイダー』(TOKYO MX)、『モンキーパーマ』(tvkほか)、「水道橋博士のメルマ旬報『みっつ数えろ』連載」など。プロデューサーとして『ホワイトボードTV』『バカリズム THE MOVIE』(TOKYO MX)など。
Twitterアカウントは@aizawaaa

最終更新:2015/11/21 12:00
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