不器用に生き抜く姿に心打たれる! 21世紀的群像劇『恋人たち』
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今週取り上げる最新映画は、現代の日本を舞台に、殺し屋たちが暗躍する裏社会の抗争に主人公が巻き込まれるサスペンスと、人を愛するがゆえに挫折し傷つく人々を描く群像ドラマの2作品。ベストセラー小説を原作に人気俳優をそろえた前者と、ほぼ新人の俳優3人をメインに据えて当て書きした脚本の後者とで、構えは大きく異なるが、キャストの熱演と作り手の真摯な姿勢は互いに引けを取らない力作たちだ。
『グラスホッパー』(11月7日公開)は、伊坂幸太郎の小説を生田斗真主演で映画化したサスペンス娯楽大作。仕組まれた交通事故で婚約者を失った教師・鈴木(生田)は、復讐のため退職して、裏社会の組織に潜り込む。だが狙った相手は、車道沿いで背中を押して事故死を偽装する「押し屋」(吉岡秀隆)によって殺されてしまう。命じられて押し屋を追跡する鈴木だったが、復讐の意図がバレ、組織から追われる身に。その頃、相手を絶望させる眼力で自殺に追い込む「鯨」(浅野忠信)、若きナイフの使い手「蝉」(山田涼介)という2人の殺し屋も、組織を揺るがす壮絶な抗争に巻き込まれていく。
3人の殺し屋のキャラがよく立っていて、巻き込まれる普通の男・鈴木との対比も効果的。主軸は男たちの闘いだが、菜々緒が扮する組織の女幹部をはじめ、麻生久美子、波瑠、佐津川愛美ら旬の女優陣もそれぞれ適役でストーリーに絡む。監督は、『脳男』(13)に続き、生田と再びタッグを組んだ瀧本智行。登場人物が複雑に入り乱れる展開を、ハードかつスピーディーな演出で手際よくまとめた一方、伊坂小説独特のユーモアを抑えており、原作ファンの評価が分かれるポイントになりそう。とはいえ、原作の続編『マリア・ビートル』の映画化につなぐためにも、本作のヒットを大いに期待したい。
『恋人たち』(11月14日 テアトル新宿、テアトル梅田ほか全国ロードショー)は、『ぐるりのこと。』(08)の橋口亮輔監督が7年ぶりに手がけた長編新作の人間ドラマ。3年前の通り魔事件で妻を失い、裁判を起こすことを心の拠りどころにしながら、橋梁点検の会社で働くアツシ。冷めた仲の夫と姑との単調な暮らしの中、パート先で出会った男に心が揺れ動く瞳子。完璧主義のエリート弁護士だが、同性愛者として親友への想いを胸に秘めている四ノ宮。3人はもがき苦しみながらも、他者とのつながりを通し、かけがえのないものに気づいていく。
橋口監督がワークショップを通じてアマチュアに近い俳優たち3人を選出し、それぞれの個性に合わせて当て書きした。不器用でも必死に生きる姿と、それぞれの「恋人」を想う純粋な感情に、見る者もまた心を揺さぶられる。脇を固める光石研、安藤玉恵、リリー・フランキーらもいい味。日本社会のよどみを映すかのような暗く重いエピソードが続くが、穏やかな笑いと、苦悩の先に射す希望の光に救われる思いがする。
(文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉)
『グラスホッパー』作品情報
<http://eiga.com/movie/80609/>
『恋人たち』作品情報
<http://eiga.com/movie/81579/>
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