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日刊サイゾー トップ > カルチャー > 映画  > 今週末公開『ヴィジット』ほか

世界的ホラーの旗手による原点回帰的作品が公開!『ヴィジット』

thevisit02(c) Universal Pictures

 今週取り上げる最新映画は、どんでん返しの傑作スリラーを連発して名を馳せたシャマラン監督の原点回帰作と、中村ゆりのやさぐれた色気が印象的なコメディードラマ。シリアスなのに随所で笑えたり、救いがなさそうでポジティブな感動があったりと、ギャップを生かした演出も見どころの2作品だ。

『ヴィジット』(10月23日公開)は、『シックス・センス』(1999)のM・ナイト・シャマラン監督が自身の原点である、謎と恐怖で観客を引き込むスリラーのジャンルに回帰した作品。15歳の姉ベッカと13歳の弟タイラーは、ペンシルバニア州の人里離れた祖父母の家を訪れ、一週間滞在することになる。優しい祖父、手製の菓子をふるまう祖母から、夜9時半以降は部屋から絶対に出ないよう約束させられた2人だが、深夜に家中に響きわたる異様な音が気になり、部屋のドアを開けてしまう。


 シャマラン監督は、『パラノーマル・アクティビティ』(07)などの人気ホラー作品を手がけるプロデューサーのジェイソン・ブラムと初タッグを組み、一人称主観(POV)形式を応用して姉弟が持つ2台のカメラによる映像で全シーンを構成。2人の眼前で起きる出来事を、観客にリアルな体験として伝える手法が奏功している。しっかり者の姉を演じるオリビア・デヨングもいいが、エド・オクセンボールド扮するおませな弟のキャラが最高。自作のラップや、ののしり言葉の代わりに女性歌手の名前を叫ぶギャグで笑いを誘い、重苦しさや緊張感をほどよく緩和してくれる。グリム童話『ヘンゼルとグレーテル』を思わせる設定も、シャマラン流の仕掛けのひとつ。果たして結末はどうなるのか、周囲やネットからネタバレされる前にぜひ劇場で驚嘆していただきたい。

『ディアーディアー』(10月24日公開)は、黒沢清、石井裕也ら名監督のもとで助監督を務めてきた菊地健雄の初監督作となるコメディードラマ。山あいの町で育った3兄妹は、幼い頃に伝説の鹿を目撃して一躍時の人となるが、やがて虚言だとみなされ、信用を失う。それから25年後、家業を継ぎ借金苦の兄・冨士夫(桐生コウジ)、精神を病み虚言癖の義夫(斉藤陽一郎)、駆け落ちの果てに酒浸りの妹・顕子(中村ゆり)は、父の危篤をきっかけに再会する。

 少しずつ壊れているのにどこか憎めない3兄妹を、菊地監督と過去の現場で縁のあった3人の俳優がそれぞれ絶妙に演じた。特に中村が醸し出す色気が哀しくも美しく、彼女の新たな代表作といえる出来。松本若菜、柳憂怜らが脇を固め、染谷将太、菊地凛子も友情出演している。菊地監督の故郷、栃木県足利市でロケを敢行。地方の閉塞(へいそく)感と屈託を示唆するスタンダードサイズ(4対3)の画面からはみ出すほどに、抑圧された思いが爆発して熱量を放つ終盤の長回しの葬儀シーンが圧巻だ。“今年最高の掘り出し物”として自信を持ってオススメできる1本で、今のところ限られている上映館も、今後増えていくことを期待したい。
(文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉)

『ヴィジット』作品情報
<http://eiga.com/movie/82414/>

『ディアーディアー』作品情報
<http://eiga.com/movie/81650/>

最終更新:2015/10/23 23:00
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