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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム >  パンドラ映画館  > ナチスもの映画が集中公開!!
深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.344

ヒトラーは予知能力者か、それとも共同幻想か? 『ヒトラー暗殺』ほかナチスものが集中公開!!

hitora_ansatsu02ドイツでは長年その存在が公表されなかったヒトラー暗殺犯ゲオルク・エルザーの半生を描いた『ヒトラー暗殺、13分の誤算』。

 世界中を戦渦に巻き込んだ狂気の独裁者として歴史に名を残すアドルフ・ヒトラー。若い頃のヒトラーは画家を目指していたことは有名なエピソードだ。ウィーンの美学校を2度受験し、不合格となっている。画家の道に進むことが叶わなかったヒトラーは、絵を描く代わりに自分の脳内で思い描いた理想世界を政治によって実態化することに取り憑かれていく。祖国の復興と民族意識に訴えかけたヒトラーの熱い演説に民衆は感銘を受け、ヒトラー率いるナチ党は合法的にドイツの第1党へと躍進していく。ヒトラーはキャンバスに絵を描くように、ドイツを、そしてヨーロッパの国々を自分の色に染めていった。ヒトラー没後70年となる2015年、日本ではヒトラーとナチスを題材にした映画が次々と公開されている。

 ヒトラーのカリスマ性を高めたのは、プロパガンダ戦略の巧みさと恐るべき悪運の強さだった。ヒトラーは権力の座に就いてから度々暗殺の標的となっているが、すべて寸前で回避しており、そのことからヒトラーには予知能力があるに違いないとさらに神聖化されていく。『ヒトラー暗殺、13分の誤算』は独力で時限爆弾を作り上げた家具職人ゲオルク・エルザーの伝記ものだ。トム・クルーズ主演作『ワルキューレ』(08)はドイツ軍内の反ナチス勢力が大戦末期にヒトラー暗殺を組織的に企てた史実をもとにしていたが、『ヒトラー暗殺』のエルザーは単独犯であり、しかも多くのドイツ人がヒトラーの熱い演説に心酔していた1939年11月に事件は起きている。エルザーが入念に準備した時限爆弾だが、ヒトラーはその日の演説を早めに切り上げ、会場となったビヤホールを去った後に爆発した。ヒトラーの代わりにビヤホールの女性従業員を含む8人が犠牲となった。

 エルザーはスイスへの逃亡中に逮捕されるが、ナチスは一介の家具職人が、しかも組織の支援なしでヒトラー暗殺を企てたことを頑なに認めようとしなかった。敵国の諜報部員か共産党によるクーデターだと考えた。『es』(02)や『ヒトラー 最期の12日間』(04)で知られるドイツのオリヴァー・ヒルシュビーゲル監督は、秘密警察によるエルザー(クリスティアン・フリーデル)への拷問シーンを生々しく再現する。だが、エルザーに自白させる代わりに、オリヴァー監督はエルザーに美しい人妻と過ごした情事の日々を回想させる。慎ましい生活の中で子持ちの女性エルザ(カタリーナ・シュットラー)との束の間の幸せを噛み締めていたエルザーは、弱者を排斥しようとするナチスの政略を憎み、ヨーロッパの国々と戦争になることを憂いていた。下半身で禁断の情事に耽りながら、上半身はヒトラーに熱狂する社会を冷静に見つめていた。エルザーの決起は、社会からつまはじきにされた男による凶行だったのか、それともヒトラーの非道さを予期した人間愛ゆえの行動だったのだろうか。クローネンバーグ監督の人気作『デッドゾーン』(83)のノンフィクション版を思わせる痛切なドラマとなっている。

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