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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 泉ピン子の恐るべしロケテクニック
週刊!タレント解体新書 第34回

泉ピン子の恐るべしロケテクニックとは テレ朝『世界の村で発見!こんなところに日本人』(10月9日放送)を徹底検証!

(2)編集を前提として、同じ質問をする

 日本人を探して現地で聞き込みを行うわけだが、あるスーパーを訪れた泉ピン子と千原ジュニアは、その日本人を知っているという情報を店員から聞き出す。2人が探している日本人は、このスーパーをたまに訪れているらしい。どの辺りに住んでいるのかなどの質問をし、それでは探しに行こう、と店を出るその直前、泉ピン子はこう質問するのだった。

「(その日本人を)見かけたことはありますか?」

 この情報はすでに入手しているものであり、見かけたことがあるからこそ、この店員と話し込むことになったわけだが、泉ピン子は最後の最後であらためてこの質問を投げかける。一見これは無駄に見えるが、決してそうではない。実際にこの最後の質問は編集で切らずに放送で使われているし、この質問と店員の回答をあらためて受ける形で、泉ピン子と千原ジュニアは次の場所に向かうという流れになっているからだ。

 これは泉ピン子が、ロケというものは編集されるものだという前提に立っているからこそできることだ。使う必要がなければ、編集で切ればいい。だが、この「(その日本人を)見かけたことはありますか?」という質問と店員の回答は、確実にどこかでディレクターが使うはずの必要な素材であることは間違いないから、ある程度編集で切られる前提で同じ質問を繰り返している。つまり、使いどころを複数用意しているのだ。泉ピン子は、いわばロケをしながらディレクター目線で自らを見ている。この技術は、さすがにベテランならではといえる。

(3)事件は起きるものではなく、起こすものである

 ロケの初日、セルビアに午後11時についた泉ピン子と千原ジュニアは、夜も遅いが現地のレストランで食事を取ることになる。店内では何やら楽器を持った人々が生演奏を行っているのだが、泉ピン子はそれを見つけた瞬間、その輪の中に飛び込んでいく。そして陽気に人々に声をかける。「何言ってるか、全然わかんないよ」と言いつつも、とにかくこの、事件を起こそうという姿勢が尋常ではない。

 あるいは日本人を探す際でも、街を歩きながら大きな声で「日本人の方いませんかー!」と叫び倒す。このバイタリティは、いったいなんだろうか? そして泉ピン子のこの行動により、人々が集まってきて声をかけてくるが、アメリカ大使館の近所だったため、最終的には警官から叱られて撮影中止になるという展開にまで発展するのだ。

 これほどまでの大御所であっても、決して受け身にならない。むしろ自分から動き、事件を起こそうとする。まさに「テレビは事件である」ということを理解しているからこそできる仕業だ。この攻めの姿勢は、泉ピン子の根幹が芸人にあるということを指し示している。

(4)対立構造を作る

 このロケは泉ピン子と千原ジュニアの2人のロケであり、最初は仲良く協力してロケを行っている。だが、その関係が徐々にマンネリ化していると感じた瞬間、泉ピン子は千原ジュニアとの対立構造を作る。この緩急の付け方が、ロケに一種の緊張感を生むことになる。

 対立構造の原因自体は「千原ジュニアがスーツケースから荷物を抜いている」というひどく些細なことなのだが、重要なのはその原因ではなく、対立構造を作るという目的そのものだ。これを中盤で作っておくことによって、視聴者の中での期待が膨らむことになる。いま2人の仲が良くても、また対立することになるかもしれない、という予想が視聴者の仲で出来上がるからだ。

 2人が仲良くしているだけでは、ドラマは生まれない。ドラマとは葛藤や対立の中でこそ生まれるものだ。女優としての顔も持つ泉ピン子は、ロケの中にドラマをも持ち込んでいる。視聴者を飽きさせない、見事な名演ではないだろうか。

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