タブーを突破する男たちの覚悟──映画『木屋町DARUMA』
#映画
映画『木屋町DARUMA』の誕生に関して重要なことは、原作者である丸野氏と榊監督の共犯関係とでも呼ぶべき相互扶助の精神ではないのか? 発禁本扱いされ、版元との出版契約がままならない衝撃的な内容の丸野氏の原作小説を、榊監督はさまざまな経験と知恵を巡らせて映像化へと導いたのだろう。
スタッフ、出演者、様々な協力者の熱意がこの映画に心血を注ぎ込み、劇場公開という難関を突破させたのだと思う。しかしながら、そう現実は甘くない。
2年半という歳月が、榊監督と丸野氏に目に見えぬプレッシャーを与え続けたのは容易に想像できてしまう。
余談となるが、かくいう筆者も、この「日刊サイゾー」でお馴染みのルポライター・昼間たかしとの仕事で、たった一冊の書籍企画に2年半もの歳月を費やしてしまったのだ。
その昼間の筆による、『コミックばかり読まないで』と題されたルポルタージュ書籍が9月17日に上梓された直後だけに、『木屋町DARUMA』の初日舞台挨拶で榊監督が発した「2年半の歳月」という言葉の重みは、ひたすらメモを走らせる筆者と、一眼レフカメラのファインダーを覗く昼間の脳裏に鋭い爪あとを残した。
名のある出版社からは評論集としての脆弱性をひたすら突かれ、長編ノンフィクション作品としての事件性やスキャンダリズムの希薄さを指摘され続け、時間ばかりが過ぎ去ってゆく日々。追加取材や脱稿を繰り返して消耗していく昼間を見かねた筆者は、評論やノンフィクションという手法のすべてを捨て去り、敢えて時代錯誤とも取られかねないルポルタージュという表現手法で行くことを提案、これを昼間が快諾した直後から出版への道筋が見えてきた。
筆者の古巣でもあるロフトプラスワンの協力を得て、その20周年記念と歩調を合わせたルポライター・昼間たかしの自分史と、表現のタブーに挑戦し続けた奥崎謙三、若松孝二、塚原晃という規格外な人間たちの残像を求め、様々な取材対象を昼間とともに追い続けた怒涛の2年半が走馬灯のように甦ったのだった。
『木屋町DARUMA』の映画化にあたって、榊監督が丸野氏に訴えた一言が忘れられない。
――「丸野さん、本が無理なら映画でやりましょう」――
榊英雄監督、丸野裕行氏は言うに及ばず、ついでに仕事仲間の昼間たかしからも少しだけ、表現者としての凄まじい覚悟を学ばせていただいた。
(文=増田俊樹)
●『木屋町DARUMA』
監督/榊英雄
キャスト/遠藤憲一 三浦誠己 武田梨奈 木下ほうか 寺島進 木村祐一
2015年10月3日(土)より渋谷シネパレスほか全国順次ロードショー中
(c)2014「木屋町DARUMA」製作委員会
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