子を殺すか自分が死ぬか――知られざる精神障害者家族の実態『「子供を殺してください」という親たち』
#本
なぜ押川氏は、そこまで彼ら「精神障害者」に根気よく関わっているのか? それは、病棟に隔離された障害者たちと心を通わせた経験があるからだという。押川氏が高校生だった当時、通学路に隔離病棟があった。それは今ほど厳重に囲われていたわけではなく、怖いもの見たさから、その小さな窓から交流を始めた。入院患者のほとんどは自分の父親と同じくらいの年齢で、彼らから「坊主」と呼ばれ、たばこや食べ物の使いっ走りをして交流を深めた。
押川氏が地元を離れて上京する時には、塀の中の障害者たちは涙を流して悲しんでくれた。以来、家族から、拒絶され一人で死んでいく障害者と、慈愛ともいえる思いで接している。
一方で、精神保健福祉の現状を記しており、障害者のケアよりも利益を優先させる業界の空気を強く糾弾している。多くの病院は3カ月経過すると退院させ、ベッドの回転率を上げることで利益を生み出す。そういった病院は儲かるが、ちゃんとした治療は行われることはない。利益度外視で運営する病院は、設備も古い中で、困窮しながら運営しているという。
対応困難な患者の場合、一度退院してしまうと、再度受け入れ先を探すことも困難になってしまう。繰り返し問題を起こす障害者はブラックリスト化され、病院間で情報が共有される場合もあるためだ。そして、また家族が苦しむ日々に逆戻りとなってしまう。
障害を持つ子どもばかりに問題があると考えがちだが、子供がそうなってしまった原因は、ほとんどの場合親にあると押川氏は断言する。障害を持つ子供と共依存してしまって、自身に原因があるとは全く気づかない母親や、子供に対して無関心で形だけの相談をし、あとは子供が死ぬのを待つだけという金持ちの親、子供に障害があるということを認めなくないからと、押川氏を逆恨みする親。
そんな身勝手な親からこそ、「子供を殺してください」という言葉が吐き出されるのだ。それは「懇願」だと押川氏は明かす。それでも彼は、そんな親子のために活動を続ける。
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