究極のフェチズムと暴力がもたらす危険な陶酔感! “キック・アス”の興奮が蘇る『キングスマン』
#映画 #パンドラ映画館
本作を魅力的にしているもうひとつの要素は、この作品は大きな矛盾を抱えているという点だ。原作では007ことジェームズ・ボンドと同じく英国の諜報機関MI6の一員としてハリーたちは描かれていたが、映画版のキングスマンはどの国にも属しない独立組織となっている。『キック・アス』や『キック・アス/ジャスティス・フォーエバー』(13)の自警団の延長上にあるものなのだ。特定の国や企業の利益に偏らない世界平和に努めるキングスマンだが、やっていることは正義という名のもとに下される暴力の行使である。キングスマンが戦うIT長者のリッチモンドも彼なりの正義にもとづき、地球の人口を適正な数に削減しようとする。完全なる人間が存在しないように、完全なる正義もありえない。クズ人間になる寸前だったエグジーを救い出したハリーだが、人種差別主義者が集まった米国の教会では大量殺戮を犯す。リッチモンドが開発した怪電波の影響なのだが、このグロテスクなはずの大虐殺シーンは観る者の脳髄をバイオレンスの甘美さで痺れさせるものとなっている。後半、正義の味方であるはずのキングスマンたちはもう一度、大量殺戮を働く。よりポップでブラックな笑いをブレンド
した形で。
これらのウルトラバイオレンスシーンがなければ、『キングスマン』はR指定にはなっていなかっただろう。だが逆に、おちこぼれ少年の美しき更生談だけでは熱狂的な大ヒット作にもなっていなかったはずだ。正論と本音、理性と野性。この世界で生きてくためには、相反するどちらの要素も必要となる。清濁併せ飲むことで、エグジーは真の大人へ、そしてセクシーな男へと成長を遂げていく。
(文=長野辰次)
『キングスマン』
原作/マーク・ミラー 監督・製作・脚本/マシュー・ヴォーン 出演/コリン・ファース、マイケル・ケイン、タロン・エガートン、サミュエル・L・ジャクソン、マーク・ストロング、ソフィア・ブテラ、ソフィー・クックソン、マーク・ハミル 配給/KADOKAWA R15 9月11日(金)より全国ロードショー
(C)2015 Twentieth Century Fox Film Corporation
http://kingsman-movie.jp
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