女優・大島優子はビンボーキャラがよく似合う! 20代後半を迎えた女の半端な生き辛さ『ロマンス』
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行き当たりばったりの小旅行だが、家族と過ごした思い出の場所を回ることで鉢子の少女時代の記憶が甦ってくる。男にだらしないイメージしかなかった母親だが、箱根に来ていた頃は父親も一緒だった。狭い団地暮らしではいつも父と母がケンカする声が聞こえてきたが、箱根に来たときだけは両親はケンカを中断した。せめて旅行中くらいケンカは控えようということらしい。それなら、ずっと旅行を続ければいいのに。そうすればケンカをせずに済み、みんな仲良く笑っていられる。自分には暗い過去しかないと思い込んでいた鉢子だが、自分にも家族に関する温かい記憶がささやかながらもあったこと、旅を続けていれば幸せになれるという想いから今の職場を選んでいたことに気づく。母親のことは好きにはなれないが、鉢子も20代後半になり、シングルマザーだった母の悩みや不安を理解できるようになっていた。駄作しか残していない映画プロデューサーの桜庭も借金が原因で、家族との離別を味わっていた。家族と距離を置くことはできても、その家族があったから今の自分がいることは否定できない。
鉢子の奔放な母・頼子を演じた西牟田恵は90年代の小劇場シーンでアイドル的な人気を博した舞台系の女優。大島優子と雰囲気が似ており、鉢子の母親役に適役。劇中で西牟田恵と大島優子はそれぞれ同じ歌を歌唱する。山口百恵のヒット曲「いい日旅立ち」だ。同じ歌でも、「日本のどこかに私を待っている人がいる」という歌詞が、昭和生まれの西牟田が歌うとストレートに“男”を連想させるが、平成育ちの大島が歌うとちょっとニュアンスが異なってくる。「私を待っている人」は必ずしも“男”とは限定されておらず、自分を受け入れてくれる家族、自分が素のままでいられる居場所を求めていることが伝わってくる。ロマンスとは何も男女の出会いだけではない。多くの人にとって家族はあって当たり前のものだが、鉢子にとって家族との温かい思い出は掛け替えのないものだった。鉢子は脱線旅行で大切な宝物を見つけた。
(文=長野辰次)
『ロマンス』
脚本・監督/タナダユキ 音楽/周防義和 エンディングテーマ『Romance サヨナラだけがロマンス』三浦透子
出演/大島優子、大倉孝二、野嵜好美、窪田正孝、西牟田恵
配給/東京テアトル 8月29日(土)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー
(c)2015東映ビデオ
http://movie-romance.com
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